德薙零己の読書記録

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クリス・ファッセル&C.W.グッドイヤー著「ワンミッション:米軍発、世界最先端の組織活性化メソッド」(日経BP)

既にTwitterで何度か報告しているが、現在、氷河期世代の採用を絞ったためにゴーイングコンサーンが成立しなくなった企業と、満足いく就職ができずにいる氷河期世代の双方にメリットをもたらす方策についてマンガにしてまとめている。まとまり次第、Amazon Kindleにて無料配布する予定である。

さて、そのマンガの重要な鍵となっているのが本書に記されている新たな組織体制である。組織体制というとマックス・ヴェーバーの述べた官僚制があるが、そして、本書のベースとなっている軍隊組織があるが、本書はそれらの組織と一線を画す新たな組織論である。

本書は軍隊がいかにして効率的に行動できるか、結果を残せるかを考えて打ち立てられた組織論であるが、軍隊にしか適用できない組織論ではない。むしろ、軍隊というものは人命に関係する日々を過ごす宿命を負っている組織であることから、軍隊という組織が行動や結果を残す方策とはすなわち企業にも応用可能である。

組織を論じるにあたって欠かすことのできないリーダーシップと階層構造について本書は画期的なアイデアを提示している。

ハイブリッド構造だ。

ファッセル氏とグッドイヤー氏は新たな組織モデルとしてハイブリッド構造を提示している。ハイブリッド構造の組織は、常に進化する課題に直面する中で、俊敏性と適応性の必要性を認識するために検討されたものである。著者らは、伝統的な命令と統制の構造がイノベーションと対応性を阻害していると主張し、自律的なチームが協力し合い、シームレスにコミュニケーションを取りながら、複雑な問題に集団で取り組むために情報やリソースを共有する、より分権的なアプローチを提唱している。この革新的な考え方が、彼らの著書の土台となっている。

ハイブリッド構造の強みは、その実用性にあり、それは一連の実例によって示されている。軍における特殊作戦部隊やフォーチュン500企業とのコンサルティングなど、米軍やビジネス部門での経験を活かしている。これらの事例を紹介することで、著者らはハイブリッド構造がいかに多様な文脈で成功裏に実施されてきたかを示し、さまざまな業界におけるその有効性を示している。

著者らは、チーム内およびチーム間のコラボレーションと連携を促進する上で、コミュニケーションが重要な役割を果たすことを強調している。透明性を促進し、組織全体で関連情報にアクセスできるようにすることで、意識を共有することの重要性を強調している。そうすることで、リーダーはサイロ化を解消し、迅速な意思決定を可能にし、チームが新たな課題に迅速に対応できるようになる。本書は、こうしたコミュニケーションの原則を効果的に実践するための実践的な戦略を提供している。

ファッセル氏とグッドイヤー氏は、高業績チームの構築における信頼の重要性を強調している。リーダーは信頼を促し、個人がオーナーシップを持ち、自律的に意思決定できるような環境を醸成しなければならないと主張する。本書では、共有目標の設定、オープンな対話の促進、失敗を成長の機会として受け入れることなど、信頼を育むための戦略を概説している。信頼を育むことで、リーダーはチームの潜在能力を最大限に引き出すことができる。

絶え間ない混乱と不安定さを特徴とする世界では、適応力が最も重要であると著者は主張する。リーダーは曖昧さを受け入れ、継続的な学習と改善の文化を奨励する必要性を強調している。アジリティを支持することで、リーダーは複雑さを克服し、ダイナミックな環境で成功するためにチームを装備することができる。ファッセルとグッドイヤーは、リーダーが組織内で順応性を育成するために、実行可能な洞察と実践的なアドバイスを提供している。

本書は21世紀のリーダーシップのための説得力のあるビジョンを提示している一冊である。従来のヒエラルキーの概念に挑戦し、コラボレーション、効果的なコミュニケーション、信頼、適応性を優先する画期的なモデルを提案している。著者は豊富な経験をもとに、貴重な教訓、実践的な戦略、刺激的なエピソードを提供し、リーダーたちが組織を変革するための指針を示す。本書は、相互接続が進む現代社会において、リーダーシップ能力を高め、成功し、高いパフォーマンスを発揮するチームを作りたいと願うすべての人にとって必読の書である。