德薙零己の読書記録

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小黒一正&菅原琢磨編「薬価の経済学」(日本経済新聞出版)

国民医療費40兆円、そのうちの25%、すなわち10兆円を薬剤費が占めている。
日本国内における薬価は2年に一度、診療報酬改定とタイミングを合わせて専門家達の計算と交渉によって決まるようになっている。
薬価の決定方法は単なる需給バランスだけでなく、新薬開発や類似薬の発売、特許期間の設定、さらにジェネリック医薬品の登場もあり全容がわかりづらいというのが一般的な感想であるが、実は、それでもまだ日本国の薬価制度は仕組みが透明化されているほうなのだ。
どれぐらい透明化されているかというと、儲かるかどうかギリギリの範囲に留まっているほどだ。四字熟語の中には薬九層倍(くすりくそうばい)、すなわち薬の値段は原価の九倍も吹っかけるほどに暴利をむさぼるものだという語があるが、少なくとも現在の日本国の薬価は当てはまらない。そこまで暴利をむさぼっているわけではない、というより、どうしてこれでやっていけるのかと疑念を持つレベルの安さに抑えられている。
薬剤関係者をはじめとする医療関係者の経済事情は厳しいものとなってしまっているが、その代わりに日本国の医療費負担はかなり軽い物となっていることは認めなければならない。

これをマクロ経済で捉えるとどうなるか?
その問いに対する回答を示しているのが本書である。

医薬品の薬価に焦点を当てて経済学の視点からの分析を提供し、医薬品の価格設定や薬価改定のメカニズムを理解するために、経済学の原則を応用することを目的としている。そのため、経済学の書籍や研究に触れることの多い人、あるいはビジネスシーンに生きる人であれば、本書を読むにあたって必要となる経済学の素養が身についているであろう。必ずしも製薬に関する深い知識を必要とせず、あくまで経済の側面から医薬費を捉えているのが本書の大きな特徴だ。
もっとも、それは私がビジネスならばどうにか食らい付くことができても、医学となると患者としての立場以外に学ぶことが無いことから起こる捉え方であろう。もし、医療関係者が本書を読んだならば、医療関係者の立場からの薬価改定の仕組みをはじめとする国民医療体制と経済との関係を深き理解を得られることになると思われる。