古代ギリシャや、3世紀までの古代ローマは多神教の世界であった。神の塑像を神殿に飾ることは珍しくなく、その多くは唯一神ではなく数多くの神々の塑像であった。
そして最後にこのような塑像を飾ることも忘れていなかった。
「未だ知られざる神」と記された神の塑像である。
人知は常に完全ではなく、どれだけ知を積み上げても未だ知られざる知が存在することを伝えていたのだ。
それから1700年。人類は無数の知を積み上げたが、それでも未だ知られざる知があり続けていることは変わらず、知られざる知によって認知の歪みを正し続けていることにも変わりはない。
本書の広告にも記されているこの二つの質問は、その如実な例であろう。
【質問1】世界の1歳児で、何らかの予防接種を受けている子供はどのくらいいる?
・A 20%
・B 50%
・C 80%
【質問2】いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいる?
・A 20%
・B 50%
・C 80%
本書には上記の二つの質問以外にも11の質問、計13問の質問が用意されている。いずれもそれまでの古い知が現実を捉えていないことをこれでもかと突きつけられる質問である。
本書の著者の先頭に名が記されているハンス・ロスリング氏はスウェーデン出身の医師兼公衆衛生学者であり、オーラ・ロスリング氏はハンス・ロスリング氏の息子、アンナ・ロスリング・ロンランド氏はオーラ・ロスリング氏の妻である。三名とも世界的な健康の専門家として知られており、本書は世界の健康情勢の現実を知る著者達が、データに裏打ちされた新鮮な視点を提供し、健康面を私たちの世界は私たちが考えているよりも良いものであるという説得力のある主張を展開している一冊である。
本書はまず、私たちの心に内在する、物事が実際よりも悪い方向に進んでいると思い込んでしまう否定的なバイアスを取り上げることから始まる。著者は「事実性」という概念を紹介し、それを「事実に基づいて世界の本当の姿を認識し理解する能力」と定義する。一連の魅力的な逸話、個人的な経験、統計的な証拠を通して、本書は世界的な問題についての一般的な神話や誤解を解きほぐしていく。
本書の強みのひとつは、データに基づいた推論を重視している点にある。明確で簡潔なグラフやチャートを用いて情報を提示し、読者を世界のより正確な理解へと導いているのが本書である。メディアのセンセーショナリズムや時代遅れのステレオタイプに影響された先入観が私たちをしばしば迷わせることを示し、批判的思考と事実に基づく世界観を奨励することで、著者は読者に思い込みを疑わせ、別の視点を検討する力を与えてくれる。
さらに著者は、「先進国」と「発展途上国」という概念を巧みに分解し、多くの国が長年にわたって成し遂げてきた進歩を強調している。著者は、このような時代遅れのカテゴリーは、現実を正確に認識する私たちの能力を妨げ、歪んだ世界観を永続させていると主張する。信頼できるデータと微妙な分析の重要性を強調するロスリングは、進歩は直線的な道筋ではなく、前向きな変化は予期せぬ場所で起こりうることを読者に思い起こさせる。
本書は世界についてより正確でニュアンスのある理解を求める人にとって必読の書である。データに裏打ちされた著者の説得力ある主張はわかりやすい表現で私たちに深く染み付いた誤解に挑戦し、グローバルな問題に対する新鮮な視点を提供してくれる。批判的思考と事実に基づく推論を促進することで、本書は、私たちがより自覚的で、情報に精通し、思いやりのある地球市民になるよう促している。本書は、私たちを取り巻く世界の捉え方を変える可能性を秘めた、啓発的で力づけられる一冊である。