德薙零己の読書記録

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アレックス・モザド,ニコラス・L・ジョンソン著「プラットフォーム革命:経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか」(英治出版)

著名なIT企業を訊ねられて、どういう企業が思い浮かぶか?

Appleか、Googleか、Facebookか、Amazonか、Microsoftか。

これらの企業には一つの特徴がある。

場所を用意しているのだ。iPhone用のアプリをリリースし、YouTubeで動画を公開し、Facebookのグループを作り、Amazonで販売し、MicrosoftのOSを搭載したPCを利用する。それぞれがクリエイティブを追求した結果のビジネスシーンであるが、そのどれもが、著名なIT企業の用意した場所を用いてビジネスを展開しているという点で共通点がある。

その意味では、ファミリーコンピュータをはじめとするハードを用意する任天堂も同じことが言える。任天堂自身がソフトを用意しているし、そのソフトが世界的な大ヒット作品となっているが、任天堂だけがそのハードで遊べるソフトを作っているわけではない。任天堂と契約を結び任天堂のOKを受けたソフトであることが求められるが、任天堂以外の企業が任天堂のハードウェアに参入するビジネスを展開することは可能だ。

この「場所」のことを「プラットフォーム」という。

アレックス・モアゼドとニコラス・L・ジョンソンの二人は、本書においてネットワーク化されたプラットフォームが経済に与える変革的影響と、企業や個人がこれらのプラットフォームを活用してデジタル時代に繁栄する方法について、説得力と洞察力をもって探求した結果を提示している。

本書の特徴として、プラットフォーム・ベースのビジネスを成功に導く基本的なメカニズムを徹底的に検証している点が挙げられる。著者らは、マルチサイド市場、ネットワーク効果、データ主導の意思決定の役割など、プラットフォーム特有の特性を理解するための構造的な枠組みを提供している。この包括的なアプローチにより、読者はプラットフォーム・ダイナミクスの複雑さを把握するための強固な基礎を得ることができる。

本書では、冒頭に記したAmazonや、UberAirbnbといった業界の巨人だけでなく、B to B ビジネスであるために一般的な知名度が低くなってしまうが、冒頭に記した企業と同様に影響力のある企業まで、プラットフォーム・モデルを採用した多様なビジネスを紹介している。これらのケーススタディは、本書を魅力的なものにしているだけでなく、これらのプラットフォームがいかに伝統的な産業を破壊し、消費者の行動を再構築したかを紹介している。

一方で二人の著者は、プラットフォーム型ビジネスの構築と運営に伴う課題についても言及している。信頼と安全性、ガバナンス、プラットフォーム所有者、プロバイダー、ユーザー間の微妙なバランスに関する問題がそうした課題である。その課題の回答として、本書は公正なルールを確立し、活気あるエコシステムを育成することの重要性を強調している。

本書は、プラットフォームビジネスの世界を効果的に解明し、起業家、ビジネスリーダー、政策立案者に貴重な洞察を提供している。二人の著者は、理論的な分析と実際の事例を組み合わせることで、急速に進化するネットワーク市場において指針となる、示唆に富んだ有益な本を作り上げた。ベテランの起業家であれ、単にデジタル変革に興味がある人であれ、本書には価値ある情報が詰まっている。