德薙零己の読書記録

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ウォルター・シャイデル著「暴力と不平等の人類史 戦争・革命・崩壊・疫病」(東洋経済新報社)

トマ・ピケティは、大著「21世紀の資本」において、格差問題が解消した時代情勢として

  • 戦争
  • 革命
  • 大規模自然災害

の三つを挙げた。

本書はその捉え方を見直し、以下の四つによる格差解消を記している。

  • 戦争
  • 革命
  • 国家破綻
  • 感染爆発

の四つである。

本書の和訳刊行は2019年6月、原著刊行もその前年である。この時点で地球上の誰もが、翌年に起こることとなるCOVID-19の災禍を知らない。
その「可能性は低い」と書かれていたことが起こったことを今に生きる我々は知っている。COVID-19の災禍を知っているからこそ、トマ・ピケティが挙げず、ウォルター・シャイデルが章立てして特筆している「疫病」のもたらす格差是正の側面に目を向ける必要があるのかも知れない。ただし、失われる命の多さを考えたならば、断じて歓迎できることではない。

そして、本書は一つの残酷な現実を指摘している。

ピケティも希望を抱いていた、政策による格差解消を本書は否定している。再分配や教育は格差の解消を生み出すことはきわめて難しいというのが本書の結論だ。

翻って、今回のCOVID-19。はたして格差を縮小したのか。残念ながら今はまだ答えを出すことができない。なぜなら、COVID-19だけでなくロシアのウクライナ侵略というもう一つの要因も存在しているし、格差に目を向けると改善されたとは言いきれず、むしろ悪化しているとも感じる。

ただ、忘れてはならないのは、現在はまだ渦中だということである。とても苦しく、とても辛(つら)い日々を過ごしている。この苦しみが終わったとき、格差が解消されている可能性もあると言えばある。それであれば期待は抱ける。もっとも、そのときの人類が直面するのは夥しい人命の喪失であろう……