いささめに読書記録をひとしずく

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おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

アダム・グラント著,楠木建監訳「HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学:あなたの限界は、まだ先にある」(三笠書房)

HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学――あなたの限界は、まだ先にある (三笠書房 電子書籍)

アダム・グラント氏の著作は楠木建氏が翻訳するものであるという図式が成立している。ドラッカーの著作とは上田惇生氏が翻訳するものであり、トマ・ピケティの著作とは山形浩生氏が翻訳するものであるという図式が成立しているように、同じ方の著作を同じ方が翻訳すると、ひとつ、大きなメリットが誕生する。

言語の壁を越えても同じ著者のエッセンスが伝わるのだ。ゆえに、図式が成立する。他の方の翻訳がダメだと言っているのではない。同じ方が翻訳すると図式が成立すると言っているのである。

当ブログではこれまで三度、アダム・グラント氏の著作を紹介している。いずれも楠木氏の翻訳によるものである。

rtokunagi.hateblo.jp

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本書は一つの独立した書籍であると同時に、これまでアダム・グラント氏が著述して楠木建氏の翻訳を経て日本で刊行された書籍群とつながる一冊なのだ。

本作もまた、これまで著作のように、この社会に生きる我々に染みついている固定観念を打破する視点を次々とぶつける。親ガチャなどという言葉に収斂される「生まれつきの才能や早期の成功」については多くの人が過度に注目しすぎていると指摘し、本来のポテンシャルとは「遅咲きの人」「最初は下手だった人」「不利な立場から這い上がった人」にこそ隠れていると主張している。完璧ではなく不完全であってもその都度改善していくこと、批判を跳ね返すのではなく知識を吸収すること、失敗は恥ではなく――著者自身の高飛び込みの選手としての経験にも基づく実体験も含め――データとなることを伝える。

その上で、モチベーションを持続させる仕組みを説く。コーチやルーティン、仲間を使って成長を加速させ、退屈な練習を「遊び」に変える技術も伝える。

そして、機会のシステムを変えることを提唱する。教育、採用、組織はスタート時の能力ではなく成長曲線を見るべきである。そこにはフィンランドエストニアの教育の成功例が参考になる。その上で、採用においては完璧な履歴書ではなくどれだけ吸収力があるかを重視すべきであるとしている。これについてはどんなに言葉を並べても、本書のエピソードの一つである宇宙飛行士ホセ・ヘルナンデス氏がいかにして宇宙飛行士となったか以上の文章は書き記せない。


本書のエピローグの章題を、楠木氏はこのように翻訳している

「最後までやり抜いた人だけに見えてくる景色」

ここに本書の神髄が詰まっている、私はそう考える。