德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

P.F.ドラッカー「明日を支配するもの:21世紀のマネジメント革命」(ダイヤモンド社)

ドラッカーが1989年に発表した本書は、政府、政治、経済、ビジネス、社会、世界観のダイナミクスの変化を探る画期的なエッセイ集である。東欧革命をはじめとする世界的な変革期を迎えている時期に出版された本書は、著者の洞察に満ちた分析と先見的なアイデアにより、この先に待ち受ける課題と機会について示唆に富む探求を提供している。

本書は

・マネジメントのパラダイム変換

・経営戦略の前提の変化

・チェンジリーダー

・新情報革命(=IT革命)

知識労働の生産性

・自らのマネジメント

の6つのパートに分かれており、それぞれが人間活動の異なる領域に焦点を当てている。ドラッカーの体系的なアプローチにより、読者は政府と政治、経済とビジネス、社会と世界観の複雑な相互関係を包括的に理解することができる。

本書刊行時点ではまだIT革命どころかITという用語も一般的ではなかった。コンピュータはあるがネットは限定的であり、コンピュータを介した人と人とのつながりは理論上の話であって現実ではなかった。しかし、ドラッカーは1989年の時点で情報がもたらす社会の変化を予期し、その後の知識社会の創出を提唱している。その上で、いかにして新しい社会において生きるかの示唆を与えている。

それは個人的なものではなく、急速なテクノロジーの進歩とグローバリゼーションが顕著な時代における政府の役割と責任の変化についても考察している。こうした新しい現実に適応するために政府が直面する課題を探り、効果的なガバナンスのための戦略を提案している。柔軟性、分権化、手続きよりも結果重視の必要性を強調する著者は、政策立案者や公共部門のリーダーに貴重な示唆を与えてくれる。

無論、ドラッカーの主戦場と言うべき経済分野において、より多くのページを割いている。経済情勢の変化に関するドラッカーの分析は、知識集約型産業、イノベーション、人的資本の重要性を特徴とするグローバル経済の出現を強調している。ドラッカーは、組織が競争力を維持するために、起業家精神、継続的学習、適応性を受け入れる必要性を強調している。ビジネスの社会的側面や倫理的側面を重視するドラッカーは、利害関係者が責任ある持続可能な実践をますます求めるようになっている今日の状況において重視すべきポイントである。

そして、忘れてはならないのが個人である。社会の変化に対して個人としていかに対処すべきか、特に地域社会、世界情勢に対する方策について探求している。ドラッカーは、知識社会の台頭、人口動態の変化による影響、コミュニティ意識を育むことの重要性について論じている。また、貧困、環境の持続可能性、社会正義といった差し迫った問題に対処するための、国家間の相互関連性とグローバルな視点の必要性についても触れている。


本書におけるドラッカーの洞察は、時代を超えた妥当性を持っていることが特徴である。原著刊行年でいうと日本でいう昭和から平成に移り変わった年に出版された本であるにもかかわらず、ドラッカーの観察と予測は今日でも強く共鳴し続けている。大きなトレンドとその帰結を予測する彼の能力は、まさに驚くべきものである。

本書の永続的な価値は、批判的思考を刺激し、積極的な考え方を育む能力にある。ドラッカーが強調する先見性、適応性、倫理的意思決定の重要性は、今もなお非常に適切であり、読者が不確実な未来をうまく切り抜けるための指針となっている。

 

なお、この著作より生み出されたマンガが、我が力作の一つであるこちらである。