メインタイトルは現在でも通用する社会問題提起である。
しかし、サブタイトルを見ると時間の流れを感じる。
そして、本書刊行年を調べると、現在とは違う形の社会問題が見えてくる。昭和46(1971)年、世間では第二次怪獣ブームで帰ってきたウルトラマンや仮面ライダーの放送が始まり、連合赤軍をはじめとする左翼テロが各地で強盗や虐殺を繰り広げていた時代であり、何か勘違いしている人達が暴れ回っていた時代である。
サブタイトルにある製糸業は戦前から数多くの女性が働いており、その労働環境は劣悪であった。ただし、現在のブラック企業はなかなか辞めさせてくれないために退職代行サービスが登場するまでになっているが、この時代は結婚を機に退職するのが一般的であった。そして、本書は、そうした経験が退職後の家庭生活や価値観にどのように影響を与えたかを明らかにしている。
著者子は、長きに亘って繊維産業の労働組合で活動した経験を活かし、製糸工場で過酷な労働を経験した女性たち、いわゆる「女工」と呼ばれた人達が、結婚を機に退職した後の生活を追跡したものである。本書では200名を超える元労働者へのアンケートとインタビューを基に、彼女たちの声を生々しく記録している。
そしてこの書籍は化の時代のジェンダーギャップのリアルを突きつける。単なる追跡調査ではなく、戦前から続くジェンダー観を示しているのである。この時代、製糸業は若い女性を大量に雇用し、結婚によって退職させるのが常態であった。一方で、夫婦間の意識差、一般的なケースで言うと夫は工場経験を知らず、伝統的な家族観を押しつけるという状況が多く、それらの意識は現在でもなお古くさい人達の中には残っている。
そして、これを書くと作者は怒るかも知れないが、作者自身もまた古くさい人間になっている。さらに、本書の著者が島田とみ子氏と共同で世に送り出した「ひとり暮しの戦後史:戦中世代の婦人たち」(岩波新書 青版924)にも言えることであるが、社会問題の改善を提唱し、その改善を実現させた結果が現代日本の苦境なのである。著者としては良かれと思ってやったことであったろうが、その善意は後の世代を苦しめる愚策でもあったのだ。



