いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ロバート・スコーブル&シェル・イスラエル著、滑川海彦&高橋信夫訳「コンテキストの時代:ウェアラブルがもたらす次の10年」(日経BP)

コンテキストの時代―ウェアラブルがもたらす次の10年

電話架けてくる。メールを送りつける。煩わしい広告を載せる。大多数が迷惑と思っていても、2%が「この商品(orサービス)買ってみるか」と動いてくれれば成功だ。迷惑だと感じる98%の不満なんか、「どうでもいい」。(本書より引用)

これは本書にある一節である。いかにも旧時代的な考えのビジネスとするしかない。迷惑がその企業にもたらすマイナスのイメージについて何ら考慮することもなく、ただただ利益追求に邁進している。しかも効率的ではない。本書の記載に基づくと、98%は無駄に終わるのだ。ディスロイヤルカスタマーを大量に生むだけでなく、企業としても無駄なコストを掛けることとなる。

本書は2013年に刊行された "Age of Context: Mobile, Sensors, Data and the Future of Privacy" の邦訳であり、2014年に刊行された。つまり、10年前のことである。そして、本書の邦訳版のサブタイトルは「ウェアラブルがもたらす次の10年」であり、まさに現在の2024年の世界がどのようなものとなっているのかを分析した10年前の書籍である。

10年前、2024年はこのような世界になると予想されていた。

膨大なデータが蓄積され、各個人に合わせて最適な情報が適宜提供される。モバイル、ソーシャルメディアビッグデータ、センサー、位置情報技術という5つの重要な技術力の融合により、親しい友人よりも私たちのことをよく知っている新世代のパーソナライズド・テクノロジーを形成する。この知識により、パーソナル・デバイスは私たちのニーズを予測し、執事やエグゼクティブ・アシスタントよりも優れたサービスを提供することができる。冒頭に記したような98%のマイナスのビジネスなど無くなり、自分が見たい広告だけを受け取ることができる。昨晩雪が降ったから早く起こせとか、会う約束の人に遅れると連絡するとか、そういうことを知っている。テレビで見る価値のあるコンテンツさえ見つけてくれる。ガンを治し、テロリストが被害を受けにくくすることも約束する。

一方で、監視される。リビングでも寝室でもどのように過ごしているかが記録され、オフィシャルな場だけでなくプライベートな場においても、何をし、誰と話し、何を見ているかのデータを収集する。ジョージ・オーウェルの言うところの BIG BROTHER IS WATCHING YOU の世界である。

以上が10年前に予測した2024年の世界である。

10年前の時点で著者達は、プライバシーの喪失を嘆く時期を終えて、人々がプライバシーの一部を取り戻せるような選択肢を求める時期であると著者達は主張した。

では、実際にどうなっているか?

当方これでもITエンジニアである。その立場から言わせていただくと、著者達の求めるプライバシーの保護のほうが成立している。それも、10年前よりも厳しい形で。ただし、それは技術によるものではなく倫理観の向上と法の遵守に由来する形であるが……