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倉山満著「嘘だらけの日本古代史」(扶桑社)

嘘だらけの日本古代史 (扶桑社BOOKS新書)

本書の著者である倉山満氏の著作は以前にも紹介した。

rtokunagi.hateblo.jp

刊行の時系列でいうと、本書が先であり、日本中世史のほうが後である。実際、上記の日本中世史の著作を読むにあたっては本書を先に読むべきかもしれない。

さて、本書は平安時代の始まる直前までの日本国の歴史に対する解説書であるが、本書にあるように戦後日本の歴史教育皇国史観の批判という前提のもと、それまでの歴史教育を全否定してきたという側面がある。それは、神話を史実として扱うようにしないとかであればまだ納得するにしても、過去に生きてきた人の考えていた歴史像を現在の概念で否定するという、果たして歴史学の捉え方として正しいのか疑う内容である。

たとえば聖徳太子を取り上げてみるとき、聖徳太子の成し遂げた功績どころか、聖徳太子という存在を現在の歴史教育は否定している。厩戸皇子の存在は歴史で取り上げられるものの、それは聖徳太子ではない。

ところが、聖徳太子の存在は近年まで当然とされていたのだ。私が書いている平安時代叢書においても、平安時代鎌倉時代に生きていた人達は聖徳太子の存在を信じており、聖徳太子に由来する歴史を信じていた。そのことを理解しないと、どうして平安時代の人達が聖徳太子を先例として扱ってきたのか理解できなくなる。

あるいは、日本国はこれまでに女性天皇が一〇代八名が誕生してきたが、うち八代六名が奈良時代までの女性天皇である。一方、現在の皇位継承を考えたときの女性天皇あるいは女系天皇について議論するとき、過去の例を取り上げることがある。だが、女性天皇容認についての先例として取り上げるとするとむしろ否認の事例となってしまう。そのことを理解しないとそもそも議論の入口に立つこともできない。

本書は日本古代史に対する知識として知っておかなければならない歴史である。よく「学校では教えない~」などという前置きでのトンデモ本が店頭に並んでいる光景を見かけるが、本書はそうしたトンデモと一線を画している。学校で習ったことを土台としてさらに上積みすることで、歴史教育に携わる者であるならば知っておかなければならない、そして、歴史に先例を求めるならば知っておかなければならない、必須知識である。