最近はテレビを観る人が少ないという言葉が広まっているが、そもそも、テレビもラジオも無い時代は100年前まで当たり前だった。関東大震災の後にラジオが登場したが、ラジオ番組の質も量も現在と比べかなり少なかった。そもそも戦後になるまでNHKだけがラジオ放送局であった。
本書は、今から100年前の人達がどのような余暇を過ごしどのように娯楽を楽しんだかをまとめた書籍である。
テレビもネット配信も無い時代ではあるが、芸人もいたし役者もいた。劇場や寄席はこれ以上ない楽しみであった。現在からすると古く感じてしまう義太夫や都々逸もその当時は時代の最先端の娯楽であり、最先端であるがゆえに白眼視されることもあった。このあたりは今も変わらない。
それまでは浮世絵や、明治時代になって広まりだしたブロマイドでしか目にできなかった芸能人であるが、最新技術である映画、その時代の言い方では活動写真によって、国内外のスターを銀幕で目にすることができるようになった。ただし、この時代の映画は無声映画であり、銀幕のスターは口を動かしているが喋らないでいる。
その一方で、声を聞くことの娯楽性は高く、漫談や落語は多くの人が寄席舞台に詰めかけて耳を傾けるようになり、多くの人の涙と笑いを誘った。また、この時代ならではと言うべきか、戦争での武勇をテーマにすることも多く、それらは寄席に詰めかけた人を意気軒昂とさせた。
現在はマスメディアからスマートメディアへと移り変わる過程にあり、娯楽の様相も同様に移り変わりつつある。しかし、娯楽と庶民との関係性については現在も過去も大きな違いは無いのだと痛感させられる。
ところで、奥付によると、本書の刊行日は昭和55(1980)年3月21日となっている。
本書刊行時は誰も想像しなかったであろう。その4ヶ月後、漫才ブームが始まることを。そして、この漫才ブームもまた、この国の娯楽の様相を大きく変化させることとなるポイントの一つとなるのである。