德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ケヴィン・アロッカ著,小林啓倫訳「YouTubeの時代:動画は世界をどう変えるか」(NHK出版)

21世紀が20世紀と連続した時代であるのは間違いないのだが、誰もが映像を発信できるようになる時代が来るとは20世紀には考えられなかったことを痛感させられる。しかも、現在進行形で新しい作品が生まれている。

本書によると、YouTubeには1分間に400時間者動画がアップロードされ続けているという。当然ながら、一人の人間が人生の全てを費やしたとしても、YouTubeに存在する全ての動画を視聴することなどできない。動画の取捨選択が行われ、同じような動画を視聴した人が次に見た動画が何であるかをYouTube側が勧めることとなる。

一人の人間が人生の全てを費やしても昇華しきれないコンテンツが存在するとき、コンテンツは激しい競争に晒され、その競争はごく一部の成功したコンテンツと、それなりの結果を残したコンテンツ、そして、全く誰からも注目されることのないまま潜むこととなるコンテンツとなる。成功したごく一部のコンテンツを送り出した制作者は莫大な広告収入を獲得し、ごく一部のコンテンツは国内外に広まって一大ムーブメントを起こす。本書で取り上げられている「江南スタイル」や、その「江南スタイル」を凌駕した「PPAP」などは記憶に新しい。

さて、このYouTubeという動画配信サイトであるが、理論上こそ世の中に数多く存在する動画投稿サイトのうちの一つでしない。しかし、その存在感は他の動画配信サイトを遙かに上回る。ときにはスポーツ中継を実現し、ときにはポスターや街頭演説を超える影響力で政策を広く訴え、そしてこれは現在進行形でもあるが、戦争を伝えるメディアとして確立されている。東日本大震災の損害の惨さを伝える映像は日本語だけでなく数多くの言語で映像記録として残り、ドラマやアニメの製作会社は自らの抱える作品を断続的にYouTubeに投稿している。

何気なく誰かが投稿した動画が、シェアされ、リミックスされ、パロディとなり、新たな創造性を触発、本書の作者の言葉に従えば「感染(ヴァイラル)」していくプロセスは、20世紀型のマスメディアの終焉と全く新しい時代の到来と言える。