貧しい暮らしをしている人がいる。
貧しい暮らしから救い出そうとする人がいる。
その人は貧しさの理由を探そうとし、その結果、稼いだカネの多くを主食の購入に充てていることが貧しさの理由であることを突き詰める。
そこでこのように考える。
「主食を買うための補助金を出す」と。
その結果どうなったか?
補助金は主食ではなく肉やエビなどの高級食材の購入に充てられ、酒やタバコの購入に充てられ、主食の購入に充てる金銭は変わらなかった。
全く以て不合理な行動である。何で肉を買うのか? 何でエビを買うのか? なぜ酒を呑みタバコを吸うのか? 主食を買えばもっと余裕が出るだろうに、なぜ主食を買わないのか? これらは全て理解できない行動である。
しかし、さらに調べると理解できる行動だとわかる。楽しみを体験できるチャンスをようやく手に入れたと考え、実行したのだ。美食も、酒も、タバコも、あるいは本書に記されているように地域の祭りも、大切なのだ。貧しいために一日をギリギリ生きるという日々を過ごしている人がようやく手にできた数少ない楽しみのチャンスをどうして捨てることができようか?
生きることを考えるならば味よりも栄養を優先させるべきであろうし、酒やタバコではなく栄養ある食事を選ぶべきであるし、後に何も残らない祭りに興じるのも合理的ではない。ただ、それは貴重な楽しみなのだ。それこそが理屈であり、それこそが生きがいなのだ。
本書を著したバナジー氏とデュフロ氏はノーベル経済学賞を受賞した研究者であり、ランダム化比較試験(RCTs)を含む厳格な研究方法を用いて、貧困の複雑さやそれを緩和するさまざまな政策の影響を解明している。本書でも上述のような実際のケーススタディと実用的な例を通じて、貧困層が直面する課題について読者に包括的な理解を提供している。
その両氏が著した本書は専門用語や複雑な経済理論を避けた上で、政策立案者や学者から関心を持つ市民まで幅広い読者にアクセス可能な本に仕立て上げている。だからこそ、読者の多くは貧困統計の背後にいる実際の人々と実際の問題を発見することとなる。貧困が依然として深刻な問題である世界において、本書は証拠に基づく解決策を提示することで希望を提供しています。両者の仕事は一掃的で一サイズに合わせた政策ではなく、貧困層の特定のニーズと状況を微妙に理解することの重要性を強調しることを協調しておきたい。
本書は "Poor Economics: Rethinking Poverty from the Ground Up" のタイトルで刊行された書籍を山形浩生氏が翻訳した邦訳本であり、著者の深い洞察を見事な訳文で読みやすく仕立て上げてくれている。これはただただ山形氏の功績に感謝するところである。「安心の山形訳」は本書も例外ではない。