德薙零己の読書記録

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ジャレド・ダイアモンド著,倉骨彰訳「昨日までの世界:文明の源流と人類の未来 上下巻」(日本経済新聞出版)

本書「昨日までの世界」は2012年に "The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?" のタイトルで刊行された書籍の邦訳版である。

「銃・病原菌・鉄」、「文明崩壊」、そして、昨日の記事に取り上げた「危機と人類」の作者であるジャレド・ダイアモンドの書籍であり、ジャレド・ダイアモンド氏のこれまでの書籍と同様、伝統的な社会の生活や習慣を掘り下げ、現代の私たちの生活様式と比較し、そこから得られる教訓を探るというユニークな機会を読者に提供している。

ここで言う伝統とは何か?

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600万年に亘る人類の進化の歴史である。国家が成立し、文字が出現したのはわずか5400年前、狩猟採集社会が農耕社会に移行したのも1万1000年前にすぎないとダイアモンド博士は述べている。その上で、それ以前の社会、つまり「昨日までの世界」で人類は何をしてきたのかを探求しているのが本書である。

伝統的な社会から何を学べるのかという問いに答えるために、ダイアモンド博士は広範なフィールドワークと調査から、個人的な逸話や観察を取り入れ、彼の語りに信憑性を持たせている。本書は、社会組織、紛争解決、子育て、健康、環境など、いくつかの重要なテーマを中心に構成されており、それらの全てを現代社会と対比させている。

その結果、伝統的な社会についての常識や先入観を覆し、現代社会がしばしばその技術的進歩や科学的知識を誇る一方で、伝統社会が同じ問題の多くに対して独創的な解決策を開発してきたとするのが本書の主張である。社会的結束、持続可能な生活、紛争解決などの分野で伝統社会がいかに優れているかを強調し、これらの問題に対する代替的アプローチについて貴重な洞察を提供している。

本書は単なる伝統社会の回顧的分析ではなく、行動への呼びかけである。著者は読者に対して我々の概念として染み付いている信念や慣習のいくつかを再考するよう勧めている。伝統的な社会を研究することで、互いや地球とより調和して生きるための戦略を見出すことができるというのがダイアモンド博士のメッセージであり、このメッセージは、気候変動、資源の枯渇、文化的衝突といった現代的な課題の中でより強く響く。

本書は伝統社会についての説得力のある探求であり、読者に自分たちの信念や慣習を再評価するよう問いかけている。ジャレド・ダイアモンド博士の魅力的な語り口と示唆に富む洞察は、本書を人類学、社会学文化人類学の分野に加える貴重な一冊にしている。本書がすべての答えを提供してくれるとは限らないが、現代の差し迫った課題に対する解決策を探るために、自分たちの文化や歴史を超えて目を向けるよう促してくれるはずである。