德薙零己の読書記録

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カビール・セガール著,小坂恵理訳「貨幣の「新」世界史:ハンムラビ法典からビットコインまで」(早川書房)

貨幣はどのように誕生したのか?

一般的なイメージだと物々交換であるが、世界の歴史を振り返ってみるとそもそも物々交換が前提となっている市場(いちば)というものが稀少である。ゼロではないが珍しい存在なのだ。しかし、文字通りの貨幣、すなわちコインや紙幣だけではなく、コメをはじめとする穀物、砂金をはじめとする鉱物、貴重な石、家畜といったものを貨幣とする市場(いちば)は世界中どこにでも見られる。


本書は貨幣のルーツがどこにあり、人類の文明史において、人類誕生以前にまで遡る貨幣のルーツ、前身は物々交換ではなく「債務」であるとする新説、金儲けで刺激される脳の秘密、「足るを知れ」と説く宗教の真意など、脳科学、生物学、行動経済学歴史学、宗教学、古銭学など様々な視点からお金の起源とその未来を探る一冊である。

本書のような書籍は通例であれば歴史学と経済学の双方の深い知識を要するが、本書は金融リテラシーのレベルが異なる読者にも複雑な経済概念を理解させる作りとなっている。歴史的な逸話、個人的な経験、経済理論を巧みに組み合わせ、数千年にわたるまとまりのある物語を作り上げている。本書は、各章が貨幣の特定の側面に焦点を当てた構成になっており、読者が物語を追いやすくなっている。また、貨幣の文化的・心理的側面についての探求についても分析しており就いてもある。セガール氏は、貨幣が私たちの価値観や意思決定、さらには人間関係にどのような影響を与えるかを掘り下げている。幸せや幸福における貨幣の役割、ストレスや葛藤を生む可能性など、通貨が人間の心理に与える影響について論じている。それは上記に掲げた目次を御覧いただければ御理解いただけるであろう。