德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ジャレド・ダイアモンド著,小川敏子&川上純子訳「危機と人類 上下巻」(日本経済新聞出版)

「銃・病原菌・鉄」

「文明崩壊」

「昨日までの世界」

これらの本を上梓されたジャレド・ダイアモンド博士が、人類史上に現れた危機のうち7つを選び出し、それぞれの事例で国家的危機に直面しながらも次への劇的変化を生み出したかをまとめた書籍であり、本書は日本国も例外ではない。何しろ7つの事例の先頭に日本国が事例としてあげられているのだ。

以下が本書で取り上げられている7つの事例である。

  1.  ペリー来航で開国を迫られた日本
  2. ソ連に侵攻されたフィンランド
  3. 軍事クーデターとピノチェト独裁政権に苦しんだチリ
  4. クーデター失敗と大量虐殺を経験したインドネシア
  5. 東西分断とナチス負の遺産に向き合ったドイツ
  6. 白豪主義の放棄とナショナル・アイデンティティの危機に直面したオーストラリア
  7. 現在進行中の危機に直面するアメリ

日本に生まれ日本に育つと自覚しづらいが、ペリー来航は上記の事例に並列で取り上げられるほどの大事件なのだ。

考えてみると、その前とその後とで日本という国は大きく変わってしまっている。無論、それまでの歴史が白紙に返って新たな歴史が誕生したのではなく、これまでの歴史の上にペリー来航以来のショックが積み重なって明治維新以降の日本国が誕生したわけであるが、果たして、ペリー来航が無かったという前提で現在よりも庶民生活の水準が上回っている日本国が存在したであろうかと考えると、その答えにYESと答えるのは難しい。

同様のことはフィンランドにも言えるしチリにも言える。インドネシアにもドイツにもオーストラリアにも言える。ロシアの侵略を受けソビエトの脅威と向かい合わねばならないフィンランドは国家を構築する場面において東の異民族をぼうきゃくすることはできないでいるし、南米のチリは新自由主義軍事独裁がもたらした国家運営から脱却するのに難渋している。インドネシアの人にとって忘れることのできないかの大量虐殺事件は現在のインドネシアを形作る土台の一つになっているし、ナチスの亡霊も東西分裂の残滓も消えることのないドイツがいかにして現在のドイツ連邦共和国を作り上げていくかに苦労している。英国への一方的片思いと形容すべきかつてのオーストラリアの歴史が現在のオーストラリアの国家観にもたらした影響は無視できない。

以上のことは、歴史上に存在した危機のうちの一部である。著者が取り上げたのは史料も豊富である、あるいは、経験者からの証言を得ることが容易であるという事例であり、歴史を振り返ると同等の苦労ないしは混迷を迎えた国家も存在するし、中には混迷に打ち勝つことができずに歴史の闇に消えてしまった国家も存在する。

そうならないためにはどうすべきか?

本書にはその答えの一つがある。