牛車。それは平安貴族が用いていた乗用車。ただし、現在の乗用車のように高速道路に乗って遠くまで出かけるのに用いることは無く、主として平安京内の移動に用いていた。
狭い地域で競うように発達したこともあってデザインや素材にこだわるようになったと同時に、いかにエレガントに乗り降りするか、いかに雅やかな車内での振る舞いをするかで競うようになった。その結果、牛車が貴族達にとってのステータスシンボルとなり、以下に優れた牛車に乗るかがその人の誇りとするところとなった。
こうした平安貴族の貴族に対する思いを現在に生きる我々は体験することはできない。当時の後世の記録から思い知ることしかできない。
その中でも有用となる一冊が本書である。現在の日本で手に入る牛車に特化した書籍として群を抜いていると言える。著者自身の研究成果だけでなく、歴代の牛車に関する研究者の研究成果も余すことなく載せており、本訴を読了するだけで平安貴族であれば身につけていなければならない牛車に対する知識を、21世紀に住む我々であっても全て身につけることが可能となるほどだ。
なお、本書には現存する研究成果に基づく図版も掲載されているが、その図版の考証者については注意が必要である。
江戸時代の研究者の研究成果から起こした図版なのであるが、その人物の名は……
いや、冗談抜きで寛政の改革でお馴染みの松平定信の考証から起こした復元図が本書に掲載されているのである。