德薙零己の読書記録

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八條忠基著「有職装束大全」(平凡社)

 

 

 

本来ならば適切な形容詞ではないのだが、この本の形容詞は「ヤベェ本」である。

令和元年のこの書き込みに端を発した「ヤベェ本」の魅力が日本全国に広まり、一時期は「ヤベェ本」がトレンドワードとなり、今でも「ヤベェ本」で検索すると本書が出てくる。通常であれば一部の一般読者や研究者、一部の図書館だけが購入することになったであろう書籍であり、2018年6月の発売から、装束研究者を中心に高い評価を得ていやものの、初刷は3000部で、このトレンドが誕生する直前では数百部が残る程度であったという。それが一つの書き込みで大トレンドとなり、平凡社には問い合わせが止まることなく、重版が決まるとより幅広い読者にも広まり、一大ベストセラーとなったのである。

この「ヤベェ本」であるが、内容はタイトルから想像できるとおり、有職故実の時代の装束について詳細にまとめた書籍である。どのページをめくっても平安朝の暮らしを彩る服飾や日用品の詳細が記されており、もし平安時代を舞台とした創作をするならば本書はかなりの参考となるであろう。

また、本書の「ヤベェ」ところはここにもある。
こうした書籍には巻末に参考文献を掲載することは当たり前である。しかし、本書の参考文献はこのようなレベルではない。参考文献のページ以降だけで日本古代文化史の一次文献史料一覧になっているのである。日本の古代から平安時代にかけての歴史、文化、生活についての一次史料を知りたければ、本書の参考文献欄を参照すればいい。現代人が歴史を学ぶ際に参照にできる全ての一次資料が本書の巻末に参考文献一覧として存在する。

そしてもっともヤベェ点。それは本書が八條忠基氏の著した書籍であるということである。編纂ではなく著作した、すなわち八條忠基氏がただ一人で本書刊行までこぎつけたということである。通常であればこのような書籍は数多くの研究者が協力しあい、八條忠基氏が編集するというテイストで刊行される一冊であるが、本書は八條忠基氏が全てを執筆した書籍である。
この一点だけでも文句なしに「ヤベェ本」である。