いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

花房尚作著「田舎はいやらしい~地域活性化は本当に必要か?~」(光文社新書)

田舎はいやらしい~地域活性化は本当に必要か?~ (光文社新書)

現在開催されているFIFAクラブワールドカップ。我らが浦和レッズは残念ながらグループステージを突破できなかったが、サポーターの勢いと選手の気迫は世界に伝えることができたというのが二試合目終了時の評価である。

ただ、同時に世界との格差を感じた。

浦和レッズは日本でもっとも観客を集めるJリーグクラブである。

一方、浦和レッズの第一試合の対戦相手であるリーベルプレートは世界で最も観客を集めるクラブである。何しろ平均入場者数が8万人を越えるのだ。

リーベルプレートの叩きだしている平均入場者数の数値は浦和レッズの本拠地である埼玉スタジアムの最大収容人数を軽く超えている。こうなると、観客動員数という点だけでなく観客を集めることの経済効果においても世界と太刀打ちできなくなる。太刀打ちするためには埼玉スタジアムよりも大きなスタジアムを作らねばならないし、スタジアムを作ったらスタジアムまでの導線、特に公共交通機関によるインフラを作り上げなければならないが、そのような巨大な建造物を一つのサッカークラブで作り上げるのは事実上不可能だ。国際試合の開催や各種イベントの開催、また、自然災害等の緊急事態における被災者収容施設としての意味合いを持たせた上で国や地方公共団体が建設してようやく世界と太刀打ちできるようになり、それは同時に地域に莫大な経済効果をもたらすこととなる。単純に言えば、初期投資費用は10年で回収でき、11年目以後は年間維持費の10倍の税収と100倍の経済効果を毎年もたらす。

だが、今の日本でそれは難しい。建設資材の高騰や建設業の人材不足も問題としてあるが、いちばんの問題は、建設や建築に対する高齢者からの凄まじい反発だ。「我々の税金を“無駄”なことに使うな」という言葉は常に大きく、それも田舎になればなるほど大きく、建設や建築を否定する製作を訴えることで選挙に当選しやすくなるという風潮がある。ところが、つい先日話題となったが、とうとう公費投入での建設も建築に対する反対の中に博物館建設の反対の声まで挙がった。百歩譲ってスタジアム建設に反対するのは意見として耳を傾けてもいい。反対派の声に従うと自然災害が起こったときに犠牲者が増えることになるが、この国の高齢者は“自己責任”という言葉が大好きなので自分のせいで誰かが死のうと全く意に介さない、意に介する能力すら有していない。

しかし、博物館建設の反対にまで至ってしまっては、もはや正気の沙汰ではない。スタジアムは民間企業の努力でどうにかできる可能性がある。しかし、博物館は民間企業の努力でどうこうするなど困難な社会教育施設であり、地域の教育の柱のうちの一つである。その博物館の建設すら拒否するというのは、現状維持すら否定して衰退の道を選択しているということなのだ。今のままでいい、金を使って欲しくない、そうしたケチくさい感情を表立たせ、地域を、そして国を衰退に導いてしまっている面々が大声で騒ぎ立てる時代になってしまったのだ。

本書は地方の衰退の現実を書き記している書籍である。しかし、本書刊行から3年半が経過した現在、世界との絶望的な差を見せつけられたことで、本書の危惧する地方の衰退がより広範囲に広がっているのではないかと感じるようになってしまった。

本日午前10時よりクラブワールドカップ第三試合が開催され、浦和レッズモンテレイと対戦する。世界から目を背けて衰退に向かっている人達に見てもらいたい試合である。衰退する日本にあって、衰退に抗って世界の現実と向かい合っている者達がいることを知ってもらい、その抗いを是非とも目に焼き付けてもらいたい。その抗いは世界への食らいつきであり、そして、衰退への道を選んだ者達への抵抗という答えなのである。