Jリーグクラブの伝統行事というか、そのシーズンのホーム最終戦を終えたあとでGMや社長といったクラブのフロントのトップが出てきてサポーターに一言述べる、そして、納得いく成績を残さなかったならばサポーターからブーイングを浴びるという光景がある。
しかし、別にそのようなルールを国際サッカー連盟(FIFA)やアジアサッカー連盟(AFC)、日本サッカー協会(JFA)がさだめているわけではない。ホーム最終戦のあとの一言がなかったとしても別にルール違反ではない。ルール違反ではないのだが、最後の一言がないとなると異例事態に感じる。
2025年12月6日(土)の埼玉スタジアムは本来ならば浦和レッズの社長が出てきて一言述べるべきところであるのだが、無かった。この試合をもって浦和レッズとの契約を終えて退団するチアゴ・サンタナ選手とマリウス・ホイブラーテン選手のスピーチがあったのみであった。これは異例な話である、そう考えたとき、今から14年前に刊行された本書を思い出した。
結論から言うと、浦和レッズの社長の行動は間違っていないのである。企業としての評判、評価、顧客からの信頼、プロフットボールクラブとして考えるならサポーターの信頼を傷つける行動ではある。ただ、本書にある権力を構築し、維持し、権力で以て結果を出すことを考えたとき、必ずしも間違いとは言えないのだ。
本書第10章にもあるように、現在の経営者は平均すると経営資源の11%をコーポレートガバナンス対応に割かねばなくなっている。しかも、その多くは経営を上向かせるどころかむしろマイナスに誘う対応であり、極論すれば無くなってしまったほうが経営を上向かせる内容なのだ。私がMBAで学んだ――そして、学んだ際のレジュメ等の公開が禁じられている教材――によると、こうしたマイナス対応をいかに減らしていくかが限られた経営資源の配分において重要になってきており、サポーターからのブーイングを浴びることと経営とがリンクしないならば、むしろ切り捨ててしまうべきことでもあるのだ。サポーターの心情としては納得できないが、ビジネスとしては納得できる話なのである。
たしかに一見すると、最終戦に姿を見せず、最終戦のあとで一年の反省文をネットに投稿して終わりという、血の通ってない薄情な、そして弱気な対応に感じる。だが、これまでのクラブ運営の失敗を語ったところで失敗が無かったことにはならない。責任の取り方は未来の成功の構築しかないのだ。そう考えると、必ずしも間違った対応であるとは言えないのである。
無論、ビジネス的視点ではともかく、サポーターとしての視点としては納得いかないところがある。このまま来年春から夏にかけても納得いかない状態が続いているとき、私はサポーターとしてではなくビジネスパーソンとして正々堂々と文句を言う手段を手にしていることを思い出し、そして、その手段を発揮することを考えるであろう。
私は株式会社浦和レッドダイヤモンズの株主ではない。
筆頭株主企業であるダイヤモンドF.C.パートナーズ株式会社の株主でもない。
だが、私はダイヤモンドF.C.パートナーズ株式会社の親会社の株主である。まあ、最小単元株しか買ってないからそんなに大口を叩ける身ではないといえばそれまでだが。



