德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

今野晴貴著「ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪」(文春新書)

今から12年前にTwitter(現X)でこんなのを作った。 Twitter上では #ブラック企業カルタ というハッシュタグを付けて大喜利的に書き込んでいたが、これらは全て本書にある実話である。 「あ」明るくなってきてからやっと帰れる 「い」命に関わる日々 「う」…

鈴木透著「スポーツ国家アメリカ:民主主義と巨大ビジネスのはざまで」(中公新書)

まずは以下の表を見ていただきたい。 順位 クラブ名 資産価値 所属 (USD) (JPY) 1 Dallas Cowboys 90.00億 1兆3500億 NFL 2 New York Yankees 71.00億 1兆0650億 MLB 3 Golden State Warriors 70.00億 1兆0500億 NBA 3 New England Patriots 70.00億 1兆0500…

鈴木透著「食の実験場アメリカ:ファーストフード帝国のゆくえ」(中公新書)

アメリカという国家は奇妙な国家である。 少なくとも現時点で地球上最強の国家であり、アメリカの影響を受けないでいられる生活を過ごすことのできている人など一人もいない。それこそ、反米を国家の大義として掲げ、アメリカに敵対することを是とする社会に…

飯田一史著「『若者の読書離れ』というウソ」(平凡社新書)

最近の若者は…… このありふれたフレーズは古代エジプトには既に登場している。多くは、年長者の若い頃と比べて現在の若者は劣っていることを年長者が揶揄するフレーズであり、このフレーズを口にすることで自らが優れていることを自賛するために用いられる。…

繁田信一著「『源氏物語』のリアル:紫式部を取り巻く貴族たちの実像」(PHP新書)

源氏物語は現在でこそ古典であるが、今から1000年前は時代の最先端を取り入れた小説であり、読者にとっても源氏物語に描かれている世界は身近な世界であった。源氏物語のリアルタイムの読者にとっては身近な出来事が作品の中で展開されており、紫式部が詳し…

中塚武監,伊藤啓介&田村憲美&水野章二編「気候変動と中世社会」(臨川書店)

日本は国家を作り出したときに中国大陸の国家様式を模倣した。それこそが国家であり正解であると考えたからである。 その前提が崩れた。 必ずしも中国大陸の国家様式が正解であるとは限らず、現実に即した社会を構築してもいいのだと気づかされ、さらには中…

中塚武監編,若林邦彦&樋上昇編「先史・古代の気候と社会変化」(臨川書店)

文字史料が誕生する前から日本列島には人間が住み、日々の生活を過ごしていた。夏は暑く、冬は寒く、梅雨の時期には雨が頻繁に降る世界が続いていた、はずである。 紀元前4000年頃に中国大陸から稲作が伝わってからは定住が珍しくなくなり、それまでのように…

鳥嶋和彦著,霜月たかなか構成協力「Dr.マシリト 最強漫画術」(集英社)

令和6(2024)年3月8日金曜日、衝撃的なニュースが駆け巡った。 鳥山明氏死去。 このニュースの衝撃は日本国内に留まらず、国境を越えて世界中に響き渡り、鳥山先生の作品を愛する世界中のファンから、鳥山先生の死を惜しむ声が、そして、鳥山先生への追悼の声…

木村茂光著「「国風文化」の時代(読みなおす日本史)」(吉川弘文館)

遣唐使が当たり前であった頃、日本の社会は唐からの移植であった。唐の政治制度、唐の律令、唐の文化こそが正解で、唐の社会を日本にも構築することこそ正解と見做されていた。 その唐が無くなった。無くなっただけでなく、その後の五代十国の混乱は日本が手…

中川右介著「文化復興 1945年:娯楽から始まる戦後史」(朝日新書)

昭和20(1945)年8月15日から同年12月31日までを扱う一冊である。 玉音放送の後、主な大都市は焦土と化した日本にあって、大都市が焦土と化していた時期に、映画、演劇、音楽、出版、スポーツなどの文化の担い手たちがどのように再起し、娯楽産業を復興させて…

木暮太一著「すごい言語化:「伝わる言葉」が一瞬でみつかる方法」(ダイヤモンド社)

ジョージ・オーウェルが「1984年」で描いた世界は、ニュースピークと題して言語体系を新たなものに置き換えようとしている過程の世界である。それも執政者にとって都合良く改変しつつある世界である。 たとえば、「1984年」の世界では good はあっても bad …

楠木建&杉浦泰著「逆・タイムマシン経営論:近過去の歴史に学ぶ経営知」(日経BP)

一言で言うと、残酷な本だ。 何が残酷か。 まさに自分が体験してきたことが、同時代の経済や経営を語るのではなく、歴史なのだという現実を突きつけられる残酷さだ。 自分の体験してきたことが歴史になっていることのショックはともかく、まさに体験してきた…

中川右介著「第二次マンガ革命史:劇画と青年コミックの誕生」(双葉社)

昭和20(1945)年8月15日をどのように迎えたか。あの時代を体験した人の多くはその瞬間を、そして、それからの苦労を饒舌に語る。それだけ鮮明な記憶となって脳裏に刻まれている。それからの日本がどのような歩みを見せたかもまた、多くの人が饒舌に語る。苦し…

奥田尚著「石の考古学(読みなおす日本史)」(吉川弘文館)

石はどこにでも存在する。人類が土器を生み出す前に加工してきたのは、まずは石である。ゆえに、日本の歴史を辿ると最初は石器に行き着く。 それでいて、日本の歴史に石はそこまでの重要性を持っていない。全くの不必要な存在であったというわけでも、現在は…

スティーブン・ピンカー著,幾島幸子&塩原通緒訳「暴力の人類史(上・下)」(青土社)

ときおり考えることがある。学生運動や国電の遵法闘争などが猛威を振るっていた時代にSNSがあったらどれだけ荒れたのだろうかと。 SNSが当たり前になった時代になって痛感するのが、そもそもSNSを通じて民意が広く伝わる現在だからこそ、かつてであれば存在…

八條忠基著「詳解 有職装束の世界」(角川ソフィア文庫)

現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」で有職故実にも着目が集まるようになったが、有職故実は何も平安時代だけの話ではない。何なら現在も必要とされる知識である。 平安時代最盛期の文化、習俗、貴族社会の生活を詳細に記録し、時間を越えても再現する。こう…

片木篤著「チョコレート・タウン:〈食〉が拓いた近代都市」(名古屋大学出版会)

中世と近代とを分けるのは何か? 様々な指標があるが、生活基盤が自給自足を前提としているか、自給自足を放棄しているかも一つの指標である。 日本史でも西洋史でも中世世界を思い浮かべていただきたいが、中世世界はそこまで交流が盛んではない。交流が無…

デヴィッド・グレーバー著,片岡大右訳「民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義」(以文社)

民主主義は古代ギリシャで誕生した、特に古代ギリシャの都市国家アテナイで誕生した、というのが一般認識になっている。 その一般認識に真正面から向かっているのが本書である。民主主義の非西洋的起源に目を向け、多くの国や地域で参加型・包括型の統治形態…

坊主 @bozu_108 著「大喜利の考え方――あなただけの「おもしろい発想」を生み出す方法」(ダイヤモンド社)

大喜利。それは、お題という制約のある中でどれだけ多くの人の関心を集める回答を示すことができるかを競う知的遊戯である。本書の著者である坊主 @bozu_108 氏はX(旧Twitter)という場所で日に何度か大喜利のお題を投稿し、多くの回答を集めている人である…

繁田信一著「平安朝の事件簿:王朝びとの殺人・強盗・汚職」(文春新書)

現在放送されている大河ドラマ「光る君へ」の登場人物の一人、町田啓太氏演じる 藤原公任(ふじわらのきんとう) は、長徳二(九九六)年から長保三(一〇〇一)年まで六年間に亘って検非違使別当として平安京の治安維持の総責任者の役割を担っていた。そのた…

ポール・ミルグロム著,川又邦雄&奥野正寛監訳,計盛英一郎&馬場弓子訳「オークション・理論とデザイン」(東洋経済新報社)

2007年に邦訳版が刊行された本書は刊行当初も脚光を浴びたが、2020年に筆者がノーベル経済学賞を受賞したことでさらなる脚光を浴びることとなった。かく言う私もノーベル経済学賞を契機として本を購入した一人である。 電波周波数の使用権販売に関する同時競…

内田宗治著「関東大震災と鉄道:「今」へと続く記憶をたどる」(ちくま文庫)

関東地方に住む者ならば、大正12(1923)年9月1日の関東大震災を必ず教わる。必ず伝え聞く。必ず語り継ぐ。関東大震災でどのような被害を受けたか、どれだけの命が失われたか、どれだけの混迷を迎えたか必ず知っている。しかし、それらのどれもが、関東大震災…

池田清彦著「人間は老いを克服できない」(角川新書)

私はこのようなマンガを作って、Amazon Kindle で無料公開している。 amzn.to 80歳のおじいちゃんあのに高校生にしか見えない外見で、まさに本書のタイトルの真逆をいくキャラクターなのだが、こおおじいちゃんが本書を読む前と読んだ後との対比でこのような…

K・ポメランツ著,川北稔訳「大分岐:中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成」(名古屋大学出版会)

高校の世界史の教科書はその多くがヨーロッパ史にページを割いている。それに異議を唱える向きは多いが、それでもヨーロッパの歴史を特別視して、ヨーロッパは特別な地域であるとの概念が成立している。 その概念は世界史の教科書に限らず社会科学の多くの書…

ラテン語さん著「世界はラテン語でできている」(SBクリエイティブ)

本書の書名に嘘偽り無し。 ラテン語とは、言わずと知れた古代ローマの公用語である。厳密に言えば古代ローマはラテン語とギリシャ語の二つを公用語とする国家であったが、一般的な概念としては古代ローマの公用語はラテン語であり、古代ローマ帝国滅亡後もラ…

播田安弘著「日本史サイエンス〈弐〉:邪馬台国、秀吉の朝鮮出兵、日本海海戦の謎を解く」(講談社ブルーバックス)

前作に続き、日本史の出来事を理系的素養の側面から分析して解を示す書籍であり、第2巻でもある本書もまた、日本史上の出来事から三つの出来事を取り上げている。豊臣秀吉の朝鮮出兵、日露戦争の日本海海戦、そして、禁断とも言うべき邪馬台国論争である。 …

播田安弘著「日本史サイエンス:蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る」(講談社ブルーバックス)

鎌倉時代の二度の元寇は、二度とも神風によって日本の勝利に終わったとされている。実際に当時の記録にも暴風雨が吹いたことは記録に残っている。だが、それだけが戦勝の要因なのか? 豊臣秀吉の中国大返しは6月5日に備中高松城を出発し、6月13日に京都近郊…

萬代悠著「三井大坂両替店:銀行業の先駆け、その技術と挑戦」(中公新書)

まずは以下のシチュエーションを考えていただきたい。 あなたは日本に住んでおり、アメリカの企業が販売している商品をその企業のWebサイトから買おうとした。料金が支払われ次第ただちに商品の発送をすること、日本への輸送に時間は掛かるが日米両国の法に…

加藤義彦著「発掘テレビ秘話・昭和編」(論創社)

かつて、テレビは娯楽の王様だった。夜7時には一家揃って一家一台のテレビの前に座り、家族揃って同じ番組を観ていた。本書はその時代のテレビ番組、テレビ番組の制作者、そして、そうしたテレビ番組に出演していたタレント達の足跡を追いかけた一冊であるが…

平野多恵著「おみくじの歴史:神仏のお告げはなぜ詩歌なのか」(吉川弘文館)

おみくじを引くと、和歌が記されていることが多い。中には漢詩が記されていることもある。 どうして詩歌が載っているのかと問われれば、その答えは単純で、そっちがおみくじのメインだから。大吉などの部分だけに目を向ける人がいるが、そちらはメインではな…