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鈴木透著「食の実験場アメリカ:ファーストフード帝国のゆくえ」(中公新書)

食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書 2540)

アメリカという国家は奇妙な国家である。

少なくとも現時点で地球上最強の国家であり、アメリカの影響を受けないでいられる生活を過ごすことのできている人など一人もいない。それこそ、反米を国家の大義として掲げ、アメリカに敵対することを是とする社会にあっても、日常生活のどこかしらには必ずアメリカが絡んでいる。

それでいて、歴史は浅い。18世紀までの人間にアメリカを意識させることは難しい。せいぜい18世紀末、それこそフランス革命以降の社会において、イギリスから独立した旧植民地という概念が生じるかどうかである。

さらに、コロンブス以前から住んでいた人達の子孫はマイノリティ扱いを受け、マジョリティである人は移民の子孫である。多くはヨーロッパからの移民の子孫であるが、その他の地域から自らの意思で移住してきた人の子孫もいるし、人類の歴史として忘れてはならないことであるが、奴隷として連れてこられた人の子孫もいる。

その痕跡は、現在のアメリカの食文化に残る。

アメリカの食文化としてイメージされる食事の多くは、ヨーロッパに起源を持ちながらも、その単純な移植ではない。現地で手に入る素材を利用した食事であり、アメリカ風の食事として確立している。たとえばバーベキューやハンバーガーがそれだ。また、ピザやパスタといったイタリア料理もアメリカに広く受け入れられているが、イタリア料理がそのまま受け入れられているのではなく、イタリアがルーツであることは知っていてもアメリカナイズされた料理になっている。そして、同じ現象は日本のスシも辿っている。

さらにここに歴史が加わる。産業革命に呑み込まれていったことで、料理が家庭料理から購入に変わってくる。自宅での調理はバーベキューのように休日に手間を掛けて作るか、そうでなければ買ってきた料理を食べるというスタイルが確立される。ここでファストフードが登場する。

ただし、これは世の常であるが、何であれ現状を批難する人もいる。昔はよかったとする守旧派もいるし、他国は素晴らしいのに自国は酷いものだと嘆く出羽守もいる。それが食事に向かうとファストフードへの批難となる。実際に肥満が問題視されていることもあって、ファストフードは槍玉に挙がっている。

本書は、コロンブス以前から住んでいた人達、奴隷として連れてこられた人達も含め、様々な食文化が融合したアメリカの食について探求している一冊である。