文字史料が誕生する前から日本列島には人間が住み、日々の生活を過ごしていた。夏は暑く、冬は寒く、梅雨の時期には雨が頻繁に降る世界が続いていた、はずである。
紀元前4000年頃に中国大陸から稲作が伝わってからは定住が珍しくなくなり、それまでのように食糧を求めて異動し続ける暮らしが減ってきた、はずである。
そうした「はず」を確定させるか、あるいは否定するか。そうした判定を文字史料では行えない以上、文字史料ではない方法でアプローチしなければ判定もできないのであるが、実は、そうした判定材料は存在するのだ。
地面に。
地面を掘ると過去が出てくる。過去の降水量、花粉をはじめとする過去の植物分布、そして葬祭といった過去が現れ、過去が読み取れる。無論、厳密なものではなく蓋然としたものとなるが、それでも大まかな流れは見えてくる。
本書は無文字時代から古代にかけての日本の気候についての研究成果をまとめた一冊である。人の住まいの痕跡から当時を復元すると、当時の日本人がなぜ農耕を選び、その場に住むことを選び、社会を国家へと発展させていった理由が見えてくる。
さらに時代が進むと文字史料が登場してくる。それは決して牧歌的な内容ではなく残酷な現実を突きつける史料である。これもまた、今から1500年前の日本人が迎えなければならなかった現実であり、歴史学者が見つけ出す現実である。