本書の書名に嘘偽り無し。
ラテン語とは、言わずと知れた古代ローマの公用語である。厳密に言えば古代ローマはラテン語とギリシャ語の二つを公用語とする国家であったが、一般的な概念としては古代ローマの公用語はラテン語であり、古代ローマ帝国滅亡後もラテン語はカトリックやプロテスタント文化圏の公用語であり続けた。
ラテン語の子孫と言うべきイタリア語やフランス語、スペイン語やポルトガル語に限らず、英語をはじめローマンアルファベットで表記される言語の多くはラテン語から多くの語彙を受け継いでいる。古ゲルマン系諸語の単語を多く残しているドイツ語とてそれは例外ではなく、ラテン語という公用語が存在することによって中近世ヨーロッパ世界、そしてカトリックやプロテスタント世界は母語の枠を超えた交通の文化を築くことができていた。有名なところではパリのカルチェ・ラタンであろう。
ラテン語を自由自在に操るところまではいかなくともラテン語から多くの単語が取り込まれていることは多くの人が知っている。たとえば英語しか話せない人であっても、自分の話す言葉はガリア戦記以前のブリタニアの言語の単語だけでなくラテン語に由来する単語を取り込んでいる言葉であることを理解している。英語で新しい単語を作らなければならなくなったときでも、古英語の単語から取り込むのではなくラテン語から新しい単語を作り出す。ラテン語由来の単語なら英語以外の言語にも伝わる。公用語としてのラテン語がその能力を発揮して広い地域で通用する単語となる。
日本はラテン語と無縁の地域、無縁の文化だと考えるかも知れないが、日本もラテン語文化とは無縁ではいられない。明治維新を期に欧米文化を取り入れた結果、英語をはじめとする多国語が日本国内に流入し、結果としてラテン語が日本文化に取り込まれていった。先に記した英語のケースとは違い日本人の多くはその単語がラテン語由来であることを理解しておらず、多くは英語の語彙として受け入れることとなったが、ラテン語の語彙は日本国内にも流入していった。
たとえばどんな語があるか?
それは本書を読んでいただきたい。
ラテン語は日本においてもかなり身近なところにいると知るはずだ。