まずは以下のシチュエーションを考えていただきたい。
あなたは日本に住んでおり、アメリカの企業が販売している商品をその企業のWebサイトから買おうとした。料金が支払われ次第ただちに商品の発送をすること、日本への輸送に時間は掛かるが日米両国の法に触れるわけでないことは確認済である。その商品を日本に向けて発送するのは、送料等全て含めて1000ドルであり、仮に1ドル=150円00銭とすると、支払金額は15万円である。
では、どうやって15万円支払う?
普通に考えればクレジットカード決済かでビットカード決済、あるいはPayPalといったところであろう。インターネットの世界では、カード番号等を入力すれば、日本円だけで無く他国の通貨が商品価格である製品も買うことが可能になっている。理想とすればミリ秒で完了といきたいところであるが、さすがにそこまで素早くはできない。それでも1分とかからずに料金の支払いは完了し、その商品はただちに発送準備に取りかかるであろう。
だが、これはネットを使った支払ができる現在だから許される話であり、今から200年前では不可能であろう。そもそもネットなど無い。
しかし、今から200年前に既に類似のシステムが存在していたとしたらどう感じるか?
驚く勿れ、江戸時代にはあったのだ。大坂の商人から商品を江戸が買うとき、江戸の商人がどうやって大坂に支払うのか? しかも、現在と違って江戸は金、大坂は銀が基軸通貨であり、金と銀との相場は日々変わる。ついでに言えば寛永通宝をはじめとする銅貨も金や銀との相場が一定してはいない。なので、大坂の商品が銀で十匁だとしても江戸の商人は金で払うこととなる。
では、江戸の商人はどうやって金貨で払った? 小判をそのまま大坂に持っていくのか?
違う。
手形を発行するのだ。
大坂の商人は両替商に手形を発行してもらう。両替商は江戸と大坂とで手形のやりとりをしている。書状のやりとりとして手形をやりとりしている。大坂の両替商から江戸へ手形が送られ、江戸の両替商は手形に記された銀十匁が金だと何両何分になるかを計算して、大坂の商品を買った江戸の商人に相応額を支払ってもらう。この仕組みは途中で手数料が取られるから、儲けとしては多少減る。手数料が取られるが、現金を江戸から大坂まで運ぶのに比べればはるかに安全であるし確実だ。
さて、この仕組み何かに似ていないであろうか?
そう、クレジットカードと一緒だ。江戸時代にはもうクレジットカード決済に相当する仕組みが存在していたのである。
ただし、現在のクレジットカードと大きな違いがある。現在は多くの人がクレジットカードを使えるようになっている。本書によると申込をすれば九割以上の割合でクレジットカードを使えるようになるという。しかし、この時代は申し込んでもなかなか利用できない。申し込んだ人の資産や評判を審査し、両替商が合格と判断した人だけを手形取引の対象とした。その割合は本書によると一割台という。つまり、ごく一部の限られた人しか利用できない仕組みだ。
今から200年前にその一部の人をどのように選別したのかの記録は、現在の三井住友銀行の前身の一つである三井両替店に存在する。その三井両替店の大阪支店である三井大阪両替店はどのような形で利用申込者の信用度合いを判定し合否を求めたのか、大阪という江戸時代の一大経済都市でいかにして信用度合いを求めたのか、本書には現在のフィンテックに深くつながる記録が残されいる。
金融で働く者であるなら知っておくべき先人の知恵が本書にまとめられている。