德薙零己の読書記録

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デヴィッド・グレーバー著,片岡大右訳「民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義」(以文社)

民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義

民主主義は古代ギリシャで誕生した、特に古代ギリシャ都市国家アテナイで誕生した、というのが一般認識になっている。

その一般認識に真正面から向かっているのが本書である。民主主義の非西洋的起源に目を向け、多くの国や地域で参加型・包括型の統治形態を採用し、社会を発展させてきたことに著者は着目し、その中で著者は、アフリカの部族集会、インドの村議会、北米の先住民の慣習などの例を探求することで、民主主義という概念自体が単一の文化的伝統に限定されるものではないと提唱している。

今に生きる我々は民主主義を欧米由来の概念として捉え、そのシステムを自国に移植することで成立させていると考える。実際、民主主義のシステムに用いられる用語は多かれ少なかれ欧米由来の用語が用いられ、自国語独自の言語を用いることは少ない。日本のように英語をはじめとするヨーロッパ諸語を自国語に訳したときに新たな漢語を創り上げたのは例外とするしかなく、その例外においても欧米由来の概念を移植することを前提として語彙を創出した。

だが、民主主義という概念そのものは多くの国や地域で普遍的に存在してきた概念であり、欧米諸国からの民主主義の移植を、単純な移植では無く、古来からの概念の再発見とすると、民主主義は成立するのだ。本書にもある通り、民主主義は単一の文化的伝統に限定されるものではなく、文化と文明の狭間にこそ見出されるものなのである。

本書は、民主主義についての先入観を疑い、反省することを促す刺激的な著作なのである。