德薙零己の読書記録

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ポール・ミルグロム著,川又邦雄&奥野正寛監訳,計盛英一郎&馬場弓子訳「オークション・理論とデザイン」(東洋経済新報社)

オークション 理論とデザイン

2007年に邦訳版が刊行された本書は刊行当初も脚光を浴びたが、2020年に筆者がノーベル経済学賞を受賞したことでさらなる脚光を浴びることとなった。かく言う私もノーベル経済学賞を契機として本を購入した一人である。

電波周波数の使用権販売に関する同時競り上げオークション(Simultaneous Ascending Auction : SAA)という言葉を聞いたことがある人は多いであろう。1994年に著者が提唱したSAAは電波周波数の販売を前提としたオークションであるが、入札者がアイテムに関して入札をし、最終条件が満たされるまで入札ラウンドが続行されるために入札者は、オークションの選択を裁量でき、自分の入札を比較的安価な対象物件にシフトできるというメリットがあることから、現在では多くの分野で取り上げられるようになっている。

特に、入札においてウェブのようなインターフェイスを使用することによって制約がが減って参加者が増えたこと、それによって高額な資金が動いたことが大きな話題となった。

ただ、本書の著者の主眼はそこでは無い。著者のオークション・デザインは、経済理論や経済理論家からの提言に大きく依存しており、最初のオークションでは経済分析がルール選択の指針となっていて、オークションの設計も理論的な優位性を達成することを目指したものであった。

それが、理論的メリットの一部を実証したのである。上段に記した電波周波数オークションは多大な利益を得ることから多くの国々で採用されることとなり、高精細度テレビを含む様々な用途に割り当てられた大量の周波数帯の価値を強調することとなったのである。

結果として、著者の提案は米国の通信規制当局の規則に影響を与えたのみならず、多くの国のオークションルールの形成に極めて重要な役割を果たしたといえる。さらに、オークション理論を一変させただけでなく、現実の市場設計にも実用的な影響を与えたことで、研究者や政策立案者に刺激を与え続けていることを忘れてはならない。