德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

楠木建&杉浦泰著「逆・タイムマシン経営論:近過去の歴史に学ぶ経営知」(日経BP)

逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知

一言で言うと、残酷な本だ。

何が残酷か。

まさに自分が体験してきたことが、同時代の経済や経営を語るのではなく、歴史なのだという現実を突きつけられる残酷さだ。

自分の体験してきたことが歴史になっていることのショックはともかく、まさに体験してきたことがこれからの生き残りについての大きなヒントとなっていることも痛感する。

本書は経営判断において潜む「同時代性の罠」を回避するための興味深い方法論を提供している一冊である。

本書のポイントから三点を抜き出してみると

  • 【飛び道具トラップ】
    新しいビジネスモデルやトレンドによる同時代性の罠を分析し、経営者が適切な判断を下すための洞察を提供する。
  • 【激動期トラップ】
    大きな変化がゆっくり進むことや技術の非連続性と人間の連続性など、激動期における罠を探求する。これにより、経営者は状況を正確に評価し、適切な戦略を立てることが可能となる。
  • 【遠近歪曲トラップ】
    シリコンバレー礼賛や海外スターCEOの評価など、遠近歪曲について考察している。経営者は、遠近歪曲を避け、客観的な視点で判断する能力を養うことが重要だとするのが著者達の主張である。

といった点が挙げられる。

楠木氏ならびに杉浦氏の今回の著書を読んだとき、私ぐらいの世代の人は新しい知を得るのではなく、既知の再確認になるであろう。そして、その既知が体系化され、未来への指針となってまとめられている本書を重宝することとなるであろう。

私より若い人、特に、20代の若手ビジネスパーソンが本書を読んだとき、現在の日本経済が、そして、世界経済がなぜ現在のようになっているのかの理由を知ることとなるはずである。

現在は歴史の積み重ねの上に成り立ち、その上に未来か築かれる。

歴史を知ることは、現在と未来を知ることである。