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デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ著,酒井隆史訳「万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~」(光文社)

万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~

ジャレド・ダイヤモンドの一連の著作や、全世界で話題となったユヴァル・ノア・ハラリの著作を読んだ方は、本書に目を通すことで、前二者の描き記した情景が打ち砕かれることとなるであろう。すなわち、農耕が社会階層やその他の社会悪をもたらす以前、人類は狩猟採集民として平等主義的で余暇に満ちた生活を送っていたと示唆している。物語は単純化されすぎており、人間社会の複雑さを反映していないとしているのだ。

新石器時代ウクライナから、メソポタミアシュメール人インダス川流域のハラッパー文明、アメリカ大陸のオルメック人、ユロック人、ワイアンドット人、そしてヨーロッパの啓蒙主義に至るまで、人類史の広大なスパンをカバーしている。紆余曲折、分岐点、回り道に満ちた、複雑で非直線的な歴史観を提示している。こうした考古学や人類学の研究を踏まえると、階層社会や国家の出現は必然的なものではなかったとするのが二人の著者の主張だ。人々は長い間、自由を大切にし、多種多様な社会的・政治的取り決めを試してきたというのが本書の主張である。

著者二名の知的幅の広さと道徳的視野の広さ、そして人類史の主要な問題に対する挑発的思考を提供した結果、本書は多くの方々から称賛されている。ただし、遠い過去の可能性を再生させることによって、我々の政治的想像力を拡大しようとする活気に満ちたアナキズムの側面もある。もっとも、そのために大成功を収めたともいえるが……

ところで、10年前はトマ・ピケティのかの書籍が書店を席巻していたが、ピケティのかの書籍は長大な著作のために隣に攻略本とも言うべき解説本が売られていた。本書は10年前と同じことを繰り返している。すなわち、書店では本書の隣に攻略本も置いている。攻略本なしで708ページの本書に挑むか、攻略本とともに本書に挑むかは、それはあなた次第。

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