德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

スティーブン・ピンカー著,幾島幸子&塩原通緒訳「暴力の人類史(上・下)」(青土社)

暴力の人類史 上

暴力の人類史 下

ときおり考えることがある。学生運動国電の遵法闘争などが猛威を振るっていた時代にSNSがあったらどれだけ荒れたのだろうかと。

SNSが当たり前になった時代になって痛感するのが、そもそもSNSを通じて民意が広く伝わる現在だからこそ、かつてであれば存在していたであろう社会問題そのものが発生することなく、以前よりも犯罪が少なく安全な社会ができあがったんじゃなかろうかという点である。

本書を読むと、かつての人類が粗暴で、治安も悪く、人命も人権も軽く扱われていることを痛感させられる。そして、時代とともに治安が向上し、人命が尊重され、人権が確立されていることも実感する。

たとえば女性の権利、たとえば人種問題、たとえば性的マイノリティに対する社会の視線、少し時間を巻き戻すだけで、現在では犯罪とされること、あるいは現在なら下品極まりなく嫌悪感を感じるであろう差別が当たり前に存在していた時代があった。

女性差別や人種差別はかつては犯罪では無かったのか?

性的マイノリティへの差別は嫌悪感を感じなかったのか?

そんなことはない。

ただ、その当時は嫌悪感を訴える手段が無かった。差別をしてヘラヘラ笑っている人に怒りを伝える手段が無かったのだ。

そして、その手段が今はある。SNSという手段が。

民俗学を「名も無き民衆の記録」と評したのは柳田国男であったか。柳田国男の言葉を借りれば、SNSというのは、同時代を動かす民衆の声であると同時に、「名のある民衆の記録」として後世に残る史料として用いられるのかもしれない。

本書を読んで痛感する人類の過去の暴力、犯罪、差別について、SNSはそれらを無くす手段の一つとして機能しているのかもしれない。