德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ジャン・ノエル カプフェレ著,古田幸男訳「うわさ:もっとも古いメディア」(法政大学出版局)

うわさ 増補版: もっとも古いメディア (叢書・ウニベルシタス 229)

ネットで飛び交う言論というものは、極論すれば噂の可視化であり、流れてくる言論の内容も人類がネットを手にする前から接してきた内容と大差ない。

その意味で、1982年に原著が刊行された本書にてまとめられた噂の正体とネット言論との間に、一つを除いて大差ないと言える。

著者は本書において、噂とは単なる虚偽の情報ではなく、社会成員が共有する「意味の体系」であり、その発生メカニズム、伝播過程、機能などを分析したものであるとしている。噂がどのように生まれ、どのように広まるのか、そしてどのような役割を果たしているのかを事例に基づいて分析し、その上で、噂とは単なるデマや嘘ではなく、真実と虚構が混ざり合い、人々の解釈によって意味づけられるものであるとしている。

その上で、意味を内包することとなる噂は人々の行動や思考に大きな影響を与えるとしている。人々の不安や恐怖を煽ったり、集団の結束を強めたり、権力者を批判したりするなど、様々な力を持つとして、フランス革命ナチス政権など、歴史上の出来事における噂の役割が分析している。このあたりは著者がフランス人であることもあり、我々日本人よりもより詳しい描写である。

こうしたメディアとしての噂は、前述の通りネット言論と同じである。発生するメカニズムも、伝播する過程も、もたらす結果も、何ら目新しいものではない。

ただ、ネット言論には一つだけ大きな違いがある。

それは、証拠提示能力。「~があったそうだ」という噂の構図に対し、ネット言論は「~があった」という証拠を伴い言論を作りあげる。ゆえに情報としての正確性が噂よりも高く、より高い信憑性を伴うのがネット言論というものだ。

もっとも、そうして提示される証拠がどこまで正確なものなのかという問題もある。波動がどうとか、ワクチンの危険性がどうとかといった非科学的な妄想ですら証拠として採用されることすらあるのだ。その意味でも、𝕏(旧Twitter)で去年より始まったコミュニティノートなどは面白い取り組みとも言えよう。何しろ、より強固な証拠を伴って言論の内容を強引に修正するのだから。