德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

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ゲオルク・フリードリヒ・クナップ著,小林純&中山智香子訳「貨幣の国家理論」(日本経済新聞出版)

貨幣の国家理論 (日本経済新聞出版)

現代貨幣理論(MMT)に対する是非はともかく、MMTという概念が誕生したかを問うと、多くの人は近年になって提唱された概念であると考えるであろう。

しかし、少なくとも1905年には貨幣の価値が物々交換のための自発的な商品貨幣という意味合いよりも、国家による法制上の創造物であることに由来するという理論が成立している。それが本書、Staatliche Theorie des Geldes であり、戦前には既に貨幣は法秩序の創造物であるとする理論が成立し、日本に伝播していた。本書は今から120年近く前に刊行された書籍の新たな邦訳であるが、邦訳自体は現在より100年以上に刊行されている。1922年に岩波書店から邦訳版が刊行されており、ケインズの働きかけで英訳版刊行される2年前のことである。

そもそも日本の国家財政は異常事態とするしかない。日本が膨大な財政赤字を抱えているにもかかわらず揺るがないのだ。その理由を解明する理論としても注目されているのがMMTであるが、MMTでは本書が必ず言及される。

また、ビットコインの創出の一翼を担い、日本でも大いに注目されたグレーバーの負債論でも本書は高く評価されている。

それも全て、本書が貨幣制度を包括的に分析し、貨幣は法秩序の創造物であると論じていることに由来する。貨幣はチャート的な支払手段であり、その価値は金属価値とは無関係である。貨幣は法秩序の実体であり、貨幣は近代国家によって規制されるが、非政府共同体によって規制されることもあるとしているのだ。

なぜ貨幣が今ある姿のようになっているのかの理論を知りたいのなら、知らねばならないのなら、本書を読んでおくことが求められるはずである。