德薙零己の読書記録

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大村大次郎著「国税調査官は見た! 本当に儲かっている会社、本当は危ない会社」(かや書房)

国税調査官は見た! 本当に儲かっている会社、本当は危ない会社 (かや書房)

本書の著者である大村大二郎氏は、現在は著述業で活躍されているが、元は国税調査官であり、主に法人を相手に徴税してきた人である。すなわち、いかにして企業から税を徴収するかを検討して実践してきた方であり、この国の法に基づいて税の徴収をしてきた方である。

裏を返せば、法に基づかない税の徴収はできないわけで、納税する企業の側が法に基づいた納税をしているなら、それ以上は何もできないのが国税調査官という職業である。こう書くと脱税に立ち向かっていた人のように思われるが、そして実際に脱税の摘発もしてきた方なのであるが、実際にはそこまであからさまな脱税などそう多くはなく、多くの企業では法に基づく納税はしていて、それ以上を払わなくて済むようにしているのである。そこで納税者と国税調査官との駆け引きが始まる。

そして、その駆け引きのスタートとなるのが決算書なのだ。企業は必ず決算書を作らねばならない。MBAなどでは決算書をはじめとする財務諸表を人間ドックの健康診断結果のようなものと教えることがあるが、その比喩はあながち間違ってはいない。健康診断の結果がその人の検査時点の健康具合を示すのと同様、決算書はその時点の企業の経営の状態を把握する結果になっている。前年と比較することで企業の経営の推移を把握し、現時点の数値を把握することで納税額を、さらにはその企業の経営の健全さを確認するようになっている。まあ、健全ではなく衰退に向かっていることを示す数値になっていることもあるが……

また、これは日本国に限ったことではないが、税というのは売上ではなく利益に基づいて徴収するようになっている。つまり、赤字になれば納税額を減らせるわけであるが、赤字になったらなったで困ることになる。赤字であるということは経営危機でもあると示すことにもなるわけで、生き残るために銀行に金を借りようとしても断られることとなる。貸す側からすれば倒産するかもしれない企業にカネを貸そうとする気にはなれないわけで、決算書の数字というのは、税を減らすことを考えると経営危機、経営を改善しようとすると納税額が増えるという、どちらの結果になっても企業としては嬉しくない結果が待っている。

しかも、これは企業として存在する限り公表する義務を要する数字なのだ。経営者にとっては胃の痛くなる数字であっても、第三者からすれば企業のリアルを知る数字である。リアルを知る数字であるために、企業の現状が、そしてある程度の未来が見えることとなる。

さて、企業の未来が見えるとなると、株式市場はどのように反応するか……?