ピケティの21世紀の資本が一大ブームとなってからもう10年以上が経過している。ピケティの投じた一石は世界中で懸念となっていた格差問題に対する明瞭な解を与える一石になり、一時はウォール街を占拠する運動まで巻き起こしたほどだ。また、資本とイデオロギーで提唱した商人右翼とバラモン左翼という概念は既存のリベラルに対する大きな一撃を生みだし、各国の選挙に多大な影響を与えた。
それにしてもフランスとは奇妙な国である。フランス革命が国家草創の起点とする考えの人が多いせいか、まずは平等に舵を取ることがある一方で、それ以前からの歴史に由来するのか競争を是とし、国家レベルでエリートを生み出す流れが存在する。この二つの矛盾した概念も、フランスという国家をより良くするための試行錯誤の末に誕生している社会構造の過程であり、試行錯誤は現在でも続いている一方、過程が人材を生み出し、世界に登場させ続けている。それは本書の主題である経済学の分野に於いても例外ではなく、資本主義を肯定する思想も、否定する思想も、双方とも輩出している。日本の経済学はどうしても英語圏の学者の言説が学習の主流となることが多いが、フランスの経済学も世界に与えている影響を考えたとき、決して無視できる存在ではない。
前述のピケティはそうしたフランスの生み出した経済学者のうちの一人であり、世界的なブームになったことは認めても、それがフランス経済学の全てではない。たしかに本書で最初に取り上げられている人物はピケティであるが、その他にも多彩な人物がフランス経済学を彩り、全世界的な経済学に大きな影響を与えている。
そこには空想的社会主義と数理経済学、そして、エンジニアリングが存在する。フランスの歴史と教育が生みだした、理想と現実、現実創出のための数理的知識の探求、そして実用が、経済学における人材輩出につながっている。
人は、ゼロから誕生するのではない。歴史と社会と教育が生みだすものである。
ところで、本書を読んで私は印象的な人物に直面した。
学び始めるのに遅すぎるなんてことは無いというのは前から思っていたことだが、その思いをさらに強くする人に出会ってしまったのである。
フランシス・ケネー。60歳を過ぎてから経済学の研究に取り組んだ人である
。