德薙零己の読書記録

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井上寿一著「戦争と嘘:満州事変から日本の敗戦まで」(ワニブックスPLUS新書)

戦争と嘘 - 満州事変から日本の敗戦まで - (ワニブックスPLUS新書)

SNSにはデマが溢れていると嘆く人がいる。

それは完全に間違いというわけではないが、正しい描写ではない。

SNSがあろうが無かろうがデマは日常に存在している。SNSはそのデマを可視化したに過ぎないし、もっと言えば、デマを訂正する機能すら有している。デマを放逐していられる時代ではなくなったというところであろう。

それゆえに、このように考える人もいる。

戦前にSNSがあったならば、日本は戦争をしなかったのではないか、と。

本書は満州事変から進駐軍までの日本の歴史における、ウソ、デマ、そして情報戦をまとめた一冊であり、本書を読むと、日本の宣伝下手を否応なく痛感することとなると同時に、軍国主義一色に染められている社会情勢にあっても、庶民はなかなかにしたたかで、現在の人と変わらぬ感情を持っていたことが読み取れる。

と同時に、だからこそ当時の人は情報統制に躍起になろうとしていたことも読み取れる。現在であればSNSでただちに伝播するであろう情報はあの時代にも存在した。その中には明らかなウソやデマもあるが、真実もあれば心情の吐露もあった。勤労動員させられたが意欲なんかない、軍人になんかなりたくない、戦争に行きたくない、戦争を止めてくれ、そんな思いの発露は存在した。そして、当時は取り締まろうとした。現在では無理であろう。戦争反対の意見だけでなく、集団主義に対する反発も、SNSで容易に拡散する。

無論、そのことを理解している人もいるし、現在ではSNSを利用した情報戦が繰り広げられている。たとえばロシアのウクライナ侵略においてロシアを擁護する声を集めてみればいい。嘘八百が繰り広げられているのは一目瞭然だが、そのデマを簡単に信じている人達がいるのも目にできるはずである。

しかし、SNSではロシアの発するデマが一つ残らず完璧に論破されているのも目の当たりにするはずである。信じているのはごく一部の知的弱者だけであり、まともな知性の人間はそこまで落ちぶれずにいられているのも目にするはずである。