德薙零己の読書記録

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ニーアル・ファーガソン「大英帝国の歴史・上:膨張への軌跡」「大英帝国の歴史・下:絶頂から凋落へ」(中央公論新社)

本書は、イギリスの歴史家が大英帝国の成立と展開、そして衰退と解体を描いた歴史書である。もともとは著者が案内役を務めたドキュメンタリー番組の書籍版として出版されたという経緯があるためか、本書を読むのはテレビでドキュメンタリー番組を観るかのような感覚に陥る。

本書の主な主張は、大英帝国が世界史において積極的な役割を果たしたというものである。著者は、大英帝国自由主義的な資本主義、グローバル化の先駆者であり、商品市場、労働市場、文化、政治、資本市場、戦争などの分野で世界に影響を与え、文明を世界に広めたと主張し、「現代世界は大英帝国の時代の産物である」と断言している。併せて著者は、大英帝国が自らの植民地を第二次世界大戦後に自発的に放棄したと論じている。
これは他の帝国が暴力的に崩壊したり、非植民地化に抵抗したりしたのと対照的と言えよう。

本日の記事の冒頭に載せた画像のように本書は上下巻に分かれている。
上巻では、16世紀から19世紀にかけての大英帝国の成立と拡大を扱っている。海賊や入植者や宣教師や官僚や投資家などが、各々の思惑で通商、略奪、入植、布教をし、世界帝国を創り上げた過程を追いかけている。
下巻では、19世紀から20世紀にかけての大英帝国の絶頂期と衰退期を分析している。最盛期には世界の四分の一の人口と領土を支配した大英帝国が背負ってきた課題とその結果を考察している。また、戦争や独立運動やグローバル競争などが帝国の運命にどのような影響を与えたか、そして、第一次世界大戦から第二次世界大戦までの戦争や独立運動などによって帝国が凋落し解体された原因や意義を考察しているのが下巻である。

本書は、一次史料や統計データなどを豊富に用いて研究している一方、著者の個人的な見解や解釈も示されており、しばしば挑発的で物議を醸す内容になっている。帝国主義植民地主義に関する従来の見方に挑戦し、読者に自分の前提や偏見を見直すことを促しているのも本書の大きな特徴である。
こうした本書の主張は必ずしも普遍的に受け入れられたり、証拠に裏付けられたりしているわけではない。一部の批評家は、著者が大英帝国を偏ったり、選択的だったり、弁護的だったりするように描いていると非難している。また、著者の論理や証拠に欠陥や欠落があると指摘している。
本書は、歴史や政治や文化に興味のある人にとって刺激的で魅力的な読み物であり、現代史の中で最も影響力のあるかつ最も議論の多い現象の一つについて、包括的で修正主義的な視点を提供している。同時に、批判的に読み、その限界や論争に注意する必要があ留のが本書である。