德薙零己の読書記録

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フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー著「超予測力:不確実な時代の先を読む10ヵ条」(早川書房)

成功して母校に寄付をした人は多々いるだろうが、母校の資金を株式市場で運用し、3万ポンド(現在の日本円にすると15億円ほど)の資金を38万ポンド(同じく190億円ほど)までに増やしたのはジョン・メイナード・ケインズぐらいだろう。

ではなぜ、ケインズにそのようなことができたのか?

結論から記すと、本書のタイトルにもある予測力である。

本書は未来を予測することの難しさと重要さについて、科学的な研究と実例をもとに説明した一冊であり、著者らは本書で。専門家の予測精度が低いことを示した一方で、抜群の成績を誇る「超予測者」と呼ばれる人たちが存在することを明示した。

彼らは、超予測者の思考法やスキルを徹底的に分析し、誰でも予測力を高めることができる「10の心得」、すなわち、

  1. トリアージ
  2. 一見手に負えない問題は、手に負えるサブ問題に分解せよ
  3. 外側と内側の視点の適度なバランスを保て
  4. エビデンスに対する嘉承反応と過剰反応を避けよ
  5. どんな問題でも自らと対立する見解を考えよ
  6. 問題に応じて不確実性はできるだけ細かく予測しよう
  7. 自信過少と自信過剰、慎重さと決断力の適度なバランスを見つけよう
  8. 失敗したときは原因を検証する。ただし後知恵バイアスにはご用心
  9. 仲間の最良の部分を引き出し、自分の最良の部分を引き出してもらおう
  10. ミスをバランスよくかわして予測の自転車を乗りこなそう

を提示した。

本書は、未来予測に関する最新の研究成果と実践的なアドバイスをわかりやすく紹介している著作であるが、それは超自然的な、あるいは霊的なものではなく、あるいは、生まれつきの才能ではなく、学習や努力が大きく影響することを示している。

と同時に、予測力を高めるためには、自分の判断に過信せず、常に情報を更新し、多様な視点を取り入れることが重要だと強調している

本書は、不確実な時代において、自分の思考や行動に対してより客観的で論理的になることを促している一冊である。

なお、ここまで10の心得と記したが、実はここに11番目の心得がある。ある意味もっとも重要な心得とも言えよう。

それは

  1. 心得を絶対視しない

である。