德薙零己の読書記録

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美川圭著「公卿会議―論戦する宮廷貴族たち」(中公新書)

平安時代奈良時代の後継としてはじまり鎌倉時代へと継承する。 
何を今さらと思うかもしれないが、律令制が崩壊して摂関政治となり、院政を経て武家政権へと移行するという流れは、完全な移行ではない。
前時代に構築されたシステムを土台とした新時代のシステムを時代に合わせ構築した結果である。

平安時代末期には鎌倉時代が誕生していると同時に、鎌倉時代には平安時代が生きている。1185年も、1192年も、一つの時代から別の時代への移り変わりの起こった年ではない。
言うなれば「気づいたら変わっていた」である。

ではなぜ、変えることができたのか?

現在の日本は議会制民主主義を国制としている国であるが、今から千年前も、民主主義ではないものの議会政治が存在していたのだ。この議会制度が存在していたために、時流に合わせた変化を自ら生み出すことができていたからである。私が平安時代叢書で議政官の構成人員をしつこいほどに書いているのも、その時点で議会制度に加わることのできる人間は誰であったのかを明記しなければ時代を描くことができないからである。

本書はその古代日本の議会制度、すなわち、公卿会議という合議制度を中心に描いた歴史書である。
公卿会議とは、朝廷を支える上級貴族である公卿たちが集まり、国政の重要案件について論じ、方針を決める会議のことであり、一般には現在の内閣の閣議に相当するとしているが、実際には現在の国会に相当する立法権を有し、立法権に付随する形で行政権が付随するという組織である。

本書で描いているのは、律令制の導入から鎌倉時代までの約千年間にわたる公卿会議の変遷である。その過程で、摂関政治院政などの貴族政治のあり方や、平安後期から鎌倉時代にかけての武士の台頭や乱などの社会的変動についても詳しく解説している。

この国における議会制は明治維新を期に誕生したものではなく、古代から存在し続け、この国を動かし続けてきた存在である。その意味で、古代も現代も違いは無い。しかし、その議会の一員になることができるのはごく一部の人である。この違いが古代と現代との違いである。

その同一性と相違性を、本書を読むことで体感することになるであろう。

そして、なぜ平安時代叢書はしつこいほどに議政官の構成を描いているのかも、そして、国制を変えることができたのかの答えも御理解いただけるはずである。