高齢者の運転するクルマが事故を起こす。
この一行を読んだだけで池袋のあの事件を思い浮かべる人も多いであろうし、あの事件は決して忘れてはならない事件であるが、同時に考えなければならないのは、池袋のあの事件だけが高齢者のクルマの運転ミスで起こる事件だけではないということ。北海道から沖縄まで、日本中で起きていることも考えなければならない話なのである。
その問題をいかにして解決するか? 高齢者にクルマを運転させないというのは一つの解決策であるが、それは同時にクルマ無しで生きていけない場所に住む人から生存を奪うことにもなるのだ。
クルマを必要としない待ちに移り住むのは一つのアイデアであるが、実際に移住を命じるのは極めて難しい。
本書は、医療、介護、住宅、財政などの専門家が執筆した論文集で構成されており、現状の課題や将来の展望を分析している一冊である。
本書の中心的なテーマは「ケア・コンパクトシティ」という概念であり、これは、高齢者が自立して暮らせるように、医療、介護、交通、商業などのサービスを近くに集約した街づくりを意味する。
本書は、高齢者が難民にならないためには、国や自治体だけでなく、地域や住民の協力が必要だと訴えており、多角的な視点から、各分野の専門家がそれぞれの知見や提言を示しており、参考になる内容はとても多い。
しかし、それでもなお具体的な事例や実践的な方法が少ないことは懸念するしかない。ケア・コンパクトシティの理念は魅力的である一方、現時点では具現化していないのが実情だ。
それでも本書を読むことによって、今後迎えること間違いない社会をどのように乗り越えるかの考察の一助となるはずである。