德薙零己の読書記録

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リディア・ケイン(著), ネイト・ピーダーセン(著)「世にも危険な医療の世界史」(文藝春秋)

医療に対する正しい知識がないと、トンデモに走る。これはCOVID-19で顕在化した現象ではなく、それより前に子宮頸がんワクチンに対する反科学ヒステリーがやらかした惨劇は忘れてはならない。もっとも、絶対に忘れてはならないメディアが早々に忘れ去って今ではなぜワクチン接種させなかったのかと糾弾する側になっているのを見ると、惨劇を忘れないなどという贅沢は期待できない。

 

医学の歴史を振り返ると、現在社会に観られる悲劇と同じことを人類は繰り返してきたのかと痛感する。それは本書に記載されていることを読めば深く理解できるであろう。本書は科学的根拠のない医療の歴史を紹介した本である。著者たちは、過去の人々がどのように病気と戦ってきたかを様々な事例を挙げて説明している。本書は、読者に驚きや恐怖だけでなく、共感や理解も与える。本書は、現代医療の発展に寄与した試行錯誤の過程を知ることができるだけでなく、過去の人々の苦しみや思い込み、信仰や希望なども感じることができる興味深い一冊である。

第一部では水銀やヒ素などの元素を使った治療法が紹介されている。水銀は始皇帝リンカーン大統領などに愛用されたが、重金属中毒を引き起こして逆効果だったことがわかる。ヒ素ダーウィンエジソンなどに強壮剤として飲まれたが、肌や内臓に悪影響を及ぼしたことがわかる。これらの事例は、過去の人々が健康を求めてどんな手段を試してきたかを示している。

第二部ではアヘンやタバコなどの植物や土を使った治療法が紹介されている。アヘンは子どもの夜泣きや咳止めに使われたが、中毒性が高く依存症を引き起こしたことがわかる。タバコは浣腸パイプとして使われたが、肺や腸に悪影響を及ぼしたことがわかる。これらの事例は、過去の人々が自然の恵みに頼ってどんな治療法を試してきたかを示している。

第三部では瀉血ロボトミーなどの器具を使った治療法が紹介されている。瀉血モーツァルトジョージ・ワシントンなどに行われたが、失血で死亡したことがわかる。ロボトミーは精神病の治療法として行われたが、脳損傷や死亡などの重大な副作用があったことがわかる。これらの事例は、過去の人々が科学的な根拠のない器具に頼ってどんな治療法を試してきたかを示している。

第四部ではヒルなどの動物を使った治療法が紹介されている。ヒル瀉血の代用品として使われたが、感染症やアレルギーなどのリスクがあったことがわかる。書くのにためらう話であるが、動物を用いた治療法の中には人間も含まれる。具体的には本書を読んでいただきたい。私はその詳細を書くのを躊躇う。ただ、効果はなく危険だったことがわかると記すに留めておくことにする。これらの事例は、過去の人々が動物の力に頼ってどんな治療法を試してきたかを示している。

第五部では電気や光などの神秘的な力を使った治療法が紹介されている。電気は内臓を刺激する感電風呂や電気ショック療法などに使われたが、危険性が高く効果は不明だったことがわかる。光は光線セラピーやラジオニクスなどに使われたが、科学的根拠のない詐欺的な治療法だったことがわかる12。これらの事例は、過去の人々が神秘的な力に頼ってどんな治療法を試してきたかを示している。

本書は、読者に驚きや恐怖だけでなく、共感や理解も与える。著者たちは、危険な治療法を批判するだけでなく、その背景にある過去の人々の苦しみや思い込み、信仰や希望なども紹介している。例えば、水銀は始皇帝にとって不老不死の秘薬だったし、ロボトミーは精神病患者にとって救済の手段だった。これらの事例は、過去の人々が医療に対してどんな期待や願望を抱いていたかを示している。

本書は、現代医療の発展に寄与した試行錯誤の過程を知ることができるだけでなく、過去の人々の生活や文化にも触れることができる本書は、歴史好きな人にもおすすめである。

また、本書のコーナーとして設けられているトンデモ医療というコーナーでは、特定のテーマに関する危険な治療法を紹介している。例えば、女性の健康や男性の健康、ダイエットや目の健康などに関するトンデモ医療が紹介されており、これらのコーナーは、読者に笑いや驚きを提供するだけでなく、過去の人々がどんな価値観や美意識を持っていたかを示している。

一方で、本書はたしかに科学的根拠のない医療の歴史を紹介した本であるが、それは現代医療の発展に寄与した試行錯誤の歴史でもある。著者たちは、危険な治療法がどのようにして科学的な治療法に変わっていったかを説明している。例えば、水銀は水銀中毒を引き起こすことがわかり、抗生物質やワクチンなどの安全な治療法に取って代わられた。ロボトミー脳損傷や死亡などの副作用があることがわかり、精神病の治療法として廃止された。これらの事例は、現代医療がどのようにして進化してきたかを示しているとも言える。

本書は、読者に驚きや恐怖だけでなく、共感や理解も与える本である。著者たちは、危険な治療法を批判するだけでなく、その背景にある過去の人々の苦しみや思い込み、信仰や希望なども紹介している。本書は、現代医療の発展に寄与した試行錯誤の過程を知ることができるだけでなく、過去の人々の生活や文化にも触れることができる興味深い一冊である。