德薙零己の読書記録

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タイラー・コーエン 、 ダニエル・グロス著「TALENT:『人材』を見極める科学的なアプローチ」(クロスメディア・パブリッシング)

古代ギリシャの哲学者達を列挙すると、極めて短期間に数多の人物が狭い地域で誕生していることがわかる。

ルネサンス期の芸術家達を列挙すると、極めて短期間に数多の人物が狭い地域で誕生していることがわかる。

平安時代の女流文学者達を列挙すると、極めて短期間に数多の人物が狭い地域で誕生していることがわかる。

このような人材はなぜ、極めて短期間に数多の人物が狭い地域で誕生したのか? 人材を生み出す土壌と環境があったからであると同時に、人材に目を向ける土壌と環境があったからでもある。哲学者を見いだした人達が、芸術家達を見いだした人達が、文学者達を見いだした人達が存在したからこそ、歴史に名を残す人達が活躍できたのである。

本書は、人材を求める場面において、学歴や経歴だけでなく、個々の能力や適性、可能性を重視することの重要性を説き、多様な視点やバックグラウンドを持つ候補者にもチャンスを与えることで、イノベーションや成長を促進する方法を提案する一冊である。すなわち、古代ギリシャで哲学者達を、ルネサンスで芸術家達を、平安時代で文学者達を見いだした人達になる方法を提案する一冊である。歴史に名を残す人物になるためにはどうすべきかを説く本ではない。見いだして選ぶ側になるためにはどうすべきかを説く本である。

本書の特徴は、著者たちが自らの経験や実例に基づいて、人材探しにおける科学的なアプローチを紹介していることにある。タイラー・コーエン氏は経済学教授であり、ダニエル・グロス氏は起業家である。そして、両者ともに優秀な人材を見出す方法について豊富な知識を持ち、実践した経験を持っている。

その上で、優秀な人材とはどのように定義されるのか、どのような質問や選考手法が有効なのか、どのような環境や条件が必要なのかなどについて詳しく解説している。本書のターゲットはたとえば企業の採用面接官のように人材を選ぶ側であるため、人を見いだすために求められる資質、それこそたとえば学歴のように明瞭である指標に限らず、過小評価されている人材や隠れた才能を発見するためのヒントや事例も豊富に紹介している。

ただし、人材を見いだすことを職業としている人、また、人材採用に関心がある人だけが本書の読者ではない。自分自身の能力や才能を見極めたい人にも有能な一冊であり、人材採用における新しい視点やアイデアに触れる、特に、予期せぬ質問やゲームを使って候補者の能力や才能を評価する方法は誰もが興味深く感じられる一冊である。