德薙零己の読書記録

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パスカル・ブルュックネール著「お金の叡智」(かんき出版)

本書は、哲学の観点から、現代社会におけるお金の役割と意味について探求した一冊である。

フランスのエッセイストであり知識人でもある著者は、お金や富にまつわる一般的な偏見や神話に挑戦し、自由と幸福の源であるお金について、よりニュアンスのあるポジティブな理解を本書にて主張している。

本書は3つのパートに分かれており、第1部では、お金を崇拝する人々と軽蔑する人々の態度を検証し、これらの見解の歴史的・文化的起源をたどっている。

第2部では、お金に対する私たちの認識を形成する3つの神話を分析し、お金が世界を支配する、富が人を不幸にする、お金と愛は相容れないと演繹している。

第3部では、金持ちの責任と義務について論じ、金持ちと貧乏人の関係にしばしば見られる偽善と憤りを批判する。

パスカル・ブルュックネールは、文学や哲学から社会学や経済学に至るまで、さまざまな資料を駆使して、その論点を説明している。フランスの反物質主義とアメリカのプラグマティズムを対比させ、両者の欠点と矛盾を暴いている。また、お金と他の価値観、すなわち、寛大さ、感謝、節度といった観点についてのバランスをとる方法について、実践的なアドバイスも展開している。

本書は、お金に関する包括的・体系的な論考ではなく、むしろ、お金に関する思い込みや偏見を見直すよう読者を誘う、一連の考察と挑発である。パスカル・ブルュックネールは、多くの逸話や事例を交えながら、生き生きとしたウィットに富んだスタイルで本書を構成している。また、「お金は悪でもあり善でもある」「貧乏は美徳ではない」など、物議を醸すような逆説的な表現も本書で展開している。読者自身にお金との関係を問いかけ、自分なりのお金の知恵を見出すことに挑戦しているのが本書だ。

本書は、人間生活において最も重要で複雑な側面の一つであるお金について、より深い洞察を得たい人にとって、興味深く刺激的な読書となるはずである。また、不平等、資本主義、社会正義に関する現在の議論にタイムリーかつ適切に貢献するものでもある。パスカル・ブルュックネールは、安易な答えや解決策を提示するのではなく、読者がお金に関する批判的思考と道徳的判断を身につけるよう促している。