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石川九楊著「ひらがなの世界:文字が生む美意識」(岩波新書)

ひらがなの世界 文字が生む美意識 (岩波新書)

イスラム教は偶像崇拝を禁止しており、敬虔なムスリムは絵画ですら偶像崇拝として否定することもある。

イスラム教の経典であるクルアーンコーラン)はアラビア語であることが求められ、日本語をはじめとする他の言語への翻訳も存在はするが、ムスリムとしてクルアーンと接するときはアラビア語で接することが求められる。

アラビア語は文字と文字との間が連続している文字体系である一方、連続のさせ方は自由度が高く、表現者の裁量が大きい。

これらの事情が重なり、イスラム圏では昔からアラビア文字のカリグラフィーが発達し、芸術として幅広く受け入れられてきた。

こうしたアラビア語の事情と似たカリグラフィー、実は日本にも存在する。それが本書の主題でもあるひらがなである。ひらがなというのは日本語の表記に用いる文字の一つであるだけでなく、文字表記の自由度が高く、文字と文字とを連続で記す前提で生み出された文字であるため、ひらがなを用いた表現は単に文章を表すだけでなく、表現そのものが芸術として成立した。

平安時代の貴族は、意中の人へ自らの思いを伝えるのに和歌を用いた。和歌を記して相手に届けるとき、和歌そのものの素晴らしさだけでなく用いる紙や添える花などにも工夫を凝らしたが、和歌の記し方にも工夫を凝らしたのだ。文字で思いを伝えるだけでなく、文字の表し方、ひらがなを用いたカリグラフィーを芸術にまで昇華させて自らの思いを伝えたのである。

具体的にどのような芸術となっていたのかは本書を参照いただくとして、本書を読むと、今の我々の使っているひらがなというものは、我々自身が想像しているよりはるかに大きな可能性を秘めた言語なのだと気づかされる。