現在、世界には200以上の国が存在する。そのうち君主制を採用している国は43ヶ国を数える。その中には、カナダやオーストラリア、ニュージーランドのように、自国に滞在していない人物を君主としている国も含まれる。ちなみに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドはイギリス国王を国王としている国であり、日本人の感覚ではピンと来ないところもあるが、イギリス連邦とはそういうものであると考えるしかない。
さて、一概に君主制と言っても、君主=国王というわけではない。バチカンはローマ教皇が君主であるし、カタールやクウェートは首長が君主である。そして何より、日本国の君主は天皇であって王ではない。単に「王」のことを「天皇」としているのではなく、王と天皇との区別がついている状態で天皇を君主の号としているのである。ちなみに江戸時代の日本は皇帝である天皇の下に国王としての征夷大将軍が存在するという形で国外と接しており、オランダも、ペリーによる開国以後の欧米諸国も、天皇を皇帝と、将軍を国王として扱っている。
では、国王以外の君主号とは何なのか? 現代日本に生きる者であれば誰もが目にすることとなる「天皇」という二文字の単語はどのような意味を持っているのか? 国王ではダメなのか? かつて中国に存在していた皇帝とはどのような意味を持つのか? 同じ皇帝でも中国とローマ帝国とではどのような違いがあるのか?
君主号とは、君主制国家においては国家の根幹に関わる話である。君主号の変更があるとすればそれは歴史的な出来事であり、誤用は国際問題に発展する話である。君主号についての知識は身につけておいて損はない。
以下は本書の目次である。この目次を見るだけでも世界には多くの君主号があること、君主号があったことを知るであろう。そして、実際に本書に目を通すと、想像以上に君主号が多岐に渡り、その全てに重要な背景があることを知るはずである。
I部 東アジアの君主号 | ||
1章 皇帝が「天子」を称するとき――中華の多元化と東部ユーラシア | 佐川英治 | |
2章 ハン・ハーン・皇帝──中央ユーラシアと東アジアのなかの大清君主号 | 杉山清彦 | |
3章 清代シプソンパンナー王国における中国・ビルマ両属関係とその終焉 | 武内房司 | |
4章 天皇号の成立と唐風化 | 大津 透 | |
II部 南アジア・中央アジア・西アジアの君主号 | ||
5章 スラトラーナ攷――神の鎧か西夷の号か | 小倉智史 | |
6章 スルターンをこえて――セルジューク朝時代の君主号 | 大塚 修 | |
7章 称号はいかに生まれ、伝播するのか――バハードゥル=ハーンをめぐって | 近藤信彰 | |
III部 ヨーロッパの君主号 | ||
8章 アウグストゥスのゆくえ――ローマ帝国統治の模索 | 田中 創 | |
9章 バシレウスからスルタンへ?――ギリシア正教徒とオスマン君主号 | 藤波伸嘉 | |
10章 複合君主号「皇帝にして国王」と主権の分有――ハプスブルク・ハンガリーの選挙王政と世襲王政 | 中澤達哉 | |
11章 君主号とブリテン革命――護国卿、あるいはオリヴァ王? | 後藤はる美 |