德薙零己の読書記録

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トリスタン・ブルネ著「水曜日のアニメが待ち遠しい:フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす」(誠文堂新光社)

水曜日のアニメが待ち遠しい: フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす

トマ・ピケティの「21世紀の資本」を読む前に、社会党支持者の立場でフランスの現代社会史を捉えた「トマ・ピケティの新・資本論」を読んでおくべきというのがこれまでの私の主張だったが、そのさらに前に読むべき本を挙げるとすれば、本書である。

フランスのアニメに事情を、リアルタイムで視聴していた氏の思いを元に記した一冊だが、そこにあるのは日本のアニメが放送されていたという時系列ではない。

リベラルに基づく政策のもと、反差別と民主主義を進めるために移民を多く受け入れ、パリ郊外に作られたニュータウンで人種混交の生活をすることを推進しておきながら、まさにそのリベラル活動家自身が我が子をその地域の公立中学に入学させないという不条理。

トマ・ピケティが問題に挙げていた「水曜休日(2014年までフランスは、土曜・日曜に加えて水曜日も学校が休みだった。現在は、水曜の午前中のみ授業あり」を当時の子供がどう観ていたのかの点も記されている。政策を進めてきた大人の視点ではなく、政策を受けた子供の視点で。

フランスは、第二次大戦までアフリカや東南アジアに植民地を持っていたから、それらの地域から数多くの移民がやってきた。いや、彼らはフランス領の住民であり、フランス語を話し、フランスの国籍を持ち、フランスの軍隊に入っていた。自ら選んでフランス人であり続けていた。

そうした覚悟を持ってフランスに住み続けた人の子として生まれ、自分はフランス人であるという認識を持って育った子であっても、残念ながら差別はあった。皮肉なことに、まさに反差別を訴えているはずのリベラルからの差別が多かった。それは子供も例外ではなかった。

ただ、アニメの世界では、それも、日本製のアニメの世界では差別などなかった。人が死ぬという残酷なリアルはあったが、肌の色や髪の色でどうこう言うような描写はなかった。どんなに激しい差別感情を抱く人も、どんなに意見の合わない人でも、アニメの話になれば打ち解けた。

日本のアニメは海外に輸出する前提で作った作品ではない。視聴者が面白いと感じるような作品を作ろうとした結果である。チャンネルが増えた分の時間を埋めるコンテンツを探していたときに見つけた日本のアニメが、一大ムーブメントになった。

実際にどのようなムーブメントがあったかは実際にトリスタン・ブルネ氏の著書を読んでいただくとして、この著書を読んだあとでもう一度トマ・ピケティ氏の二冊の著作に目を通すと、格差問題や差別問題に対する、また違った視点を得られるはずである。