德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

リチャード・フロリダ著,井口典夫訳「クリエイティブ・クラスの世紀:新時代の国、都市、人材の条件」(ダイヤモンド社)

クリエイティブ・クラスの世紀

日本人が本書を読むと、「創造のための環境を日本国内にいかに用意するか」という感情を抱く。しかし、、補記のスタートでいきなり「日本は創造のための環境世界第二位」と数字で示され、どう応えれば良いかわからない感覚に襲われる。

本書は世界的な人材競争に焦点を当てている一冊である。著者は本書において、メイクアップアーティスト、ソフトウェアプログラマーステディカムオペレーターといった、多様なスキルを持つ人々で構成される「クリエイティブ・クラス」を、現代の経済において最も価値のある労働者と位置づけている。

これらの人々は世界中で常に需要があり、著者はこれまでの著作において、技術への投資と寛容な市民文化、たとえば大規模なLGBTQ+コミュニティの存在を受け入れる地域が、他の地域からクリエイティブ・クラスを引き寄せ、維持するのにどれほど重要かを強調してきた。本書も例外ではないが、本書は著者のこれまでの著作と違い、このクリエイティブな才能を引き寄せるための世界的な競争を検討している。

本書に於いて著者は、2002年までのアメリカはクリエイティブな資本集結において無類の地位を保持していたと説く。しかし、ジョージ・ブッシュ政権における産業政策と同時多発テロ以降に高まったセキュリティ上の懸念、保守派とリベラル派の間の文化的な分断の増加など、いくつかの重要な出来事がアメリカをこのグローバルな人材競争で大きな不利な立場に置いていることを懸念している。

冒頭に述べた日本に対する評価はその反証とも言えよう。

ただし、本書の刊行は2007年である。世界はその後で金融危機リーマンショック)を迎え、日本国はそれに加えて民主党恐慌という大惨事を体験した。そのことは忘れてはならない。