德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

永井孝尚著「なんで、その価格で売れちゃうの?:行動経済学でわかる「値づけの科学」」(PHP新書)

なんで、その価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」 (PHP新書)

ドラッカーは企業の目的を顧客の創造にあると説いた。

本書に記した価格設定戦略は、その全てが企業の顧客創造戦略である。

転売ヤーがよくする言い訳として「適正価格にしているだけ」というものがある。どうやら転売ヤーの頭の中では、価格というものが需要と供給のバランスで決まるという古くて誤った感覚が未だに残っているらしい。あるいは、単に頭が悪いだけ。

こう書くと、価格が需要と供給のバランスで決まるのは間違いなのかと思う人もいるであろうが、その通り、間違いである。需要は価格決定の材料の一つでしかなく、価格決定は供給者の経営戦略によって決まるものである。

さて、本書で取り上げているのは様々な企業の価格設定戦略である。

 

たとえば、無料にするというビジネス戦略がある。普通に考えれば無料にすると利益など出るわけがない。しかし、あえて無料にするビジネス戦略がある。どういうことか?

有名なミシュランガイド、あれは現在でこそ有料の書籍であるが、スタート時は無料のガイドブックであった。素晴らしい料理を出す店を無料のガイドブックに載せて配布するビジネスでどうして儲かるのか?

理由は簡単で、ミシュランとはタイヤ製造会社なのである。美味しい料理を提供する店に来るまで行く人が増えれば増えるほど車のタイヤの摩耗が増えてタイヤ交換が増えるのだ。

 

この30年間、日本中で体感してきた、値下げ。背下げというのは消費者にとって有り難いように見えるが、ビジネス面で言うと、手詰まりである。値下げをするにはコストカットが必要となるが、下げることのできるコストとなると、企業努力ではなく、納入先への値下げの強要や従業員への待遇悪化となって跳ね返る。

また、値下げをすると顧客を一瞬だけではあるが獲得できる。しかし、その顧客がロイヤルカスタマーとなるケースは乏しい。ゼロとは断言できないが、値下げ断行時に想定していた規模の顧客の獲得とはつながらない。このあたりは私が何かを記すよりも、セス・ゴーディンの言葉の転載のほうがよりわかりやすいであろう。