德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

岩本宣明著「科学者が消える:ノーベル賞が取れなくなる日本」(東洋経済新報社)

科学者が消える―ノーベル賞が取れなくなる日本

まずは本書の目次をここに掲載するので目を通していただきたい。

 

日本人研究者がノーベル賞を受賞するケースが多かったが、それは過去の話とするしかない。これから先も受賞者が出てくることはあるだろうが、毎年のように何人もの受賞者が登場するような時代は過去の話とするしかない。それらは全て過去の遺産なのだ。

現在はどうなっているのか?

その問いに対する回答は本書の目次を見ていただければそれで十分であろう。

博士号を手にするまでの金銭的な問題、手にした後の研究環境、博士号を手にしても研究職に就けるとは限らず、就業できたとしても日々の雑務に追われて研究どころではない。そもそも日本国は満足いく研究環境を用意している国ではない。団塊ジュニア氷河期世代はまともに就職できない者が多かったがそれは研究職においても同じであり、博士号を取得したのに、どの大学も、どの研究機関も、博士号取得者を雇用することはなく、雇用したとしても不安定な非正規職に留められた。

もっとも、本書p.263-265にある政府の政策としての大学院重点化政策が学生の質を低下させ、博士号の粗製濫造を招いたという指摘は同意しない。そもそも母数が多いのだから、1990年以降に博士号を手にした者の数がそれ以前と比べてかなり増えても、それは当然である。能力が劣っているのではなく、能力を発揮する場所を用意してこない側の問題なのである。

優秀な者を使い捨ての消耗品として乱雑に扱ってきた結果が現在であり、これから社会がとるべきは、使い捨てにさせられてきた団塊ジュニア氷河期世代に対していかに償い続けるかである。よく「今からでも遅くはない」などというフレーズで慌てて政策を採ることを進言する者がいるが、もはやそのフレーズも通用しない。とっくに手遅れだが、それでも今のまま放置するともっと大問題となるので、やらないよりはマシというレベルの進言であるが、満足いく研究を生涯に亘って続けることができるだけの環境を全ての博士号取得者に提供することである。

それができるだけの税金はとっくに払い終えた。財源が無いなどという言い訳は通用しない。