德薙零己の読書記録

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桃崎有一郎著「武士の起源を解きあかす:混血する古代、創発される中世」(ちくま新書)

武士の起源を解きあかす ──混血する古代、創発される中世 (ちくま新書)

現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」の時代はまだ武士がそこまで強固な存在として確立されているわけではないように見えるが、その50年前には関東地方で平将門が、瀬戸内海で藤原純友が反乱を起こしている。すなわち、武士はもう誕生している。

私は平安時代叢書に於いて一つの説を提唱した。

平安時代初頭、桓武天皇から嵯峨天皇の時代までの38年間に亘る蝦夷との戦いを終えた後、派遣された朝廷軍が現地解散となった後に武士となったとする説である。そして、縄文人である蝦夷との戦いを終えたことで縄文時代終結した、すなわち、縄文時代が終わったと同時に武士が誕生したとした。

この説に異を唱える人は数多くいるであろうが、それでも武士という存在が日本の歴史に登場するようにあったのは平安時代であること、武士の誕生前に軍事力は存在していたが、その軍事力は朝廷の指揮下にあったことを認めない人はいないであろう。一般的には。

ただ、日本国の歴史に於いて考えなければならない重要な視点が一点ある。奈良時代までの日本は、地域の有力者である豪族と、中央政界における有力者である貴族との境界線は不明瞭であり、有力者がそれなりの軍事力を行使できていた一方、都が平安京に定められると豪族≒貴族という構図は崩れ、地方の有力者としての権力を失って京都に在駐するか、中央政界の権力を失って地方に滞在し続けるかの二択を迫られるようになったということである。

このうちの後者が後の武士の起悪魔での起源の一つであるが、無論、それだけが武士の起源ではない。

本書は、武士の正体についての謎を解明するために、古代と中世をまたにかけ、血統、都鄙、思想に着目することで。武士はいつ、どこで生まれたのかという問いを求める一冊である。