德薙零己の読書記録

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小黒一正著「財政危機の深層:増税・年金・赤字国債を問う」(NHK出版新書)

財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う (NHK出版新書)

本書は2014年末の、すなわち10年前の我が国の財政を客観的に知るのに有益な一冊である。氏の掲げる改善策については賛否両論が湧き上がるであろうが、否定する場合でも客観的データは信頼置けるといえよう。

その上で痛感する現実がある。

特効薬などないのだ。本書刊行から10年の歳月を経て、民主党恐慌という二度と繰り返してはならない地獄よりはマシになったが、まだまだ解決には至っていないのが現状である。民主党恐慌後の安倍内閣菅義偉内閣、そして現在の岸田文雄内閣のもと、日本経済は着実に発展している。最悪期は脱して向上してきてもいる。しかし、本書に記されている問題はまだ解決していない。解決しようという向きも見られない。

なぜか?

上述のように、特効薬などない。少しずつ治療していくしかない。しかも、状況は年々悪化している。勤労者が減り、高齢者が増えている。支える人が減り続け、支えてもらう人が増え続けているのだから、状況は絶対に悪化する。民主党恐慌終結後の経済政策は、完膚なきまでに破壊された日本経済の立て直しと、悪化していく状況への対処に終始するしかなく、完治などまだまだ先の話である。

ここから先は予測であるが、一気に好転することはない。だが、どこかで好転はする。その好転のときに負担を押しつけられることとなるのは、これまでのおよそ50年の人生でずっと負担を背負わされてきた団塊ジュニア氷河期世代であろう。押しつけられていた負担に対する償いの方法など、無い。何しろ今後50年間の国家予算の全てを団塊ジュニア世代への償いのために注ぎ込んだとしてもプラスマイナスゼロにすらほど遠いのだから。